第十二章 プロポーズがすっ飛ばされてます?

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「ハイハイ。でもそろそろ、出て行ってくれるかしら? 女性の支度の時間よ」 「仕方ないですね。承知しました」  メルセデスにきつくにらまれ、グレゴールは渋々といった様子で退室した。入れ替わりにハイジが入って来て、衣装の準備を始める。メルセデスは私を見つめると、安堵したような笑みを浮かべた。 「無事に今日出席できて、本当によかったわ。私の連絡が遅かったせいで、ハルカを危険な目に遭わせてしまった。心から、後悔していたのよ……」 「タイミングが悪かったのですよ、メルセデス様。私たちも、ハルカ様をお一人で送り出すなど、軽率でした」  ハイジが、口を挟む。私が別邸に移った後、王都はかなり危険な状況になった。そこでグレゴールの強硬な説得で、メルセデスもまた、他の別邸に移ったのだという。戻った際、ハイネマン本邸に人気が少なかったのは、そのせいだ。  その後メルセデスは、王都の状況を知らせる手紙を私に書いた。だが一足遅く、その手紙が私のいる別邸に着いたのは、私が偽手紙をもらって飛び出した一日後だったのだそうだ。   「お二人とも、悪くないですよ。騙された私が、愚かだったんです」  私は、彼女たちを慰めた。メルセデスが、吐き捨てるように言う。 「まったく、エマヌエルに返事など書くのじゃなかったわ……。それにしても、よく似せた筆跡だったこと。ヘルマンもたじたじね」 「もういいのです。エマヌエル様、カロリーネ様も処分を受けましたし……。今日は、このおめでたい結婚をお祝いしましょう」  もう一度力強く言うと、メルセデスはようやく笑顔になった。 「その通りね。さ、張り切ってお洒落しましょう!」  イルディリア王国クリスティアン王太子と、ロスキラ王女マルガレータの結婚式は、王都で最も大きい聖堂にて、厳かに執り行われた。マルガレータは、艶やかな黒髪に鮮やかなグリーンの瞳をした、活発そうな女性で、クリスティアンとはお似合いだった。  私はといえば、グレゴールとメルセデスに挟まれて、新郎側でちゃっかり出席させてもらった。当然ながらこちら側は、アウグスト五世はじめ、名だたる王族らが勢ぞろいしている。私は、まるで主役にでもなったかのように緊張した。 「マルガレータ様、お綺麗……。でもドレスって、白ではないのですね」  私は、思わず呟いた。マルガレータがまとっているのは、瞳と同じグリーンのドレスだったのだ。 「確かに白が一般的だが、着たければ他の色でも構わない。お前の世界では、白のみだったのか?」  グレゴールが尋ねる。ええ、と私は頷いた。 「途中で、他の色のドレスに着替えることはありましたけれど。ほとんどの場合は、純白ですね。女性の憧れ、といいますか」 「そういうものか」  グレゴールは、真剣に頷いた。  式は滞りなく終了し、新郎新婦は仲睦まじく寄り添って、聖堂を後にした。私たちも、退場する。すると外には、期待に満ちた眼差しを浮かべた、若い娘たちが集っていた。どうやら、ブーケトス目当てらしい。この世界でもあるようだ。  中には、アンネとマリアの姿もあった。二人は、私に気付くと、笑顔で手を振った。 「あら、ハルカ! 怪我の具合は、もう大丈夫なの?」 「ええ、ありがとう」  二人は、私がハイネマン邸に戻って以来、何度も見舞いに来てくれたのだ。 「ハルカも来たら? ブーケ、受け取れるかもしれないわよ」  マリアが手招きする。私はためらったのだが、そこへメルセデスがそっと背中を押した。 「行ってらっしゃいな」 「はあ……。あの、メルセデス様は?」 「私は結構」  何やら巻き込まれる形で、私は娘たちの集団に加わった。ブーケを携えたマルガレータが、後ろを向いてスタンバイする。 「行くわよ!」  明るいかけ声と共に、彼女は勢い良くブーケを放った。弧を描いて、飛んで来たそれは……。
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