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「領民たちから信頼を得ることは、領主夫人の一番の条件だ。俺の目に狂いは無かった」
グレゴールは自信たっぷりに語っているが、私はふと気付いた。
「あのですね、グレゴール様。よくよく考えたら、私はあなたから、一度もプロポーズされていない気がするのですが。私が断るという可能性は、考えられなかったのですか?」
「考えなかった」
グレゴールは、即答した。
「俺を愛しているのだろう? 戦火まっただ中の王都へ、飛んで帰って来るくらいにな」
「いや、それはそうですけど……」
何という自信だ。それに、とグレゴールがけろりと続ける。
「もう王太子殿下の御前で宣言したのだ。撤回は不可能だぞ」
「究極の外堀固めじゃないですか……」
口では文句を言いつつも、私の胸は温かいものでいっぱいだった。絶対に手が届かないと思っていた人の、妻になれるのだ。
(夢みたい……)
ブーケのジンクスは本当だったなあ、としみじみ思っていると、クリスティアンが戻って来た。
「マキ殿へのご挨拶は終わったぞ。ハルカ嬢は? 友人に別れを告げなくていいのか」
「あ、はい。伺います!」
私はグレゴールに連れられて、儀式に用いるという部屋へと向かった。そこには、見覚えがあった。最初に召喚された時の部屋だ。
「では、最後に思う存分話すがよい」
グレゴールは、そう言い残して去って行った。
恐る恐る中へ入ると、榎本さんがぽつんと床で膝を抱えていた。召喚された時に着ていた、パンツスーツを身に着けている。
「セシリアとウォルターは?」
「元いた世界へ帰ったよ。彼らの役目も、終わったしね。まあ、もう力を借りるような事態にならなきゃいいんだけど……」
そういえば聖獣は、この世界に常駐しているわけではないのだった、と私は思い出した。彼らが招かれるのは、イルディリア王国内で災厄が起きた時だ。確かに、そうならないに越したことはないのだろうけれど……。
「お礼、言いたかったのになあ。助けてくれて」
「気にしなくていいよ。美味しい食事のお礼だって、セシリアたち、そう言ってた。一緒に過ごせて楽しかった、ともね」
「それなら、いいんだけど……」
榎本さんが、念を押すように、尋ねる。
「北山さんは、本当にここへ残るんだね? 後悔、しないね?」
「うん。実は……」
グレゴールとの結婚が決まった、と伝えると、榎本さんはやっぱり、という顔をした。
「超熱烈にキスしてたもんね?」
「何で、それを……、あっ」
私は、ハッと思い出した。
「セシリア~、ウォルター~……」
真っ赤になって顔を覆った私の肩を、榎本さんはぽんぽんと叩いた。
「いやいや、よかったじゃん? 巻き込んじゃって悪かったって、ずっと思ってたけど、北山さんが幸せならそれでいいのかなって、今は思えるよ……」
「幸せだよ」
私は、力強く頷いた。
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