第十二章 プロポーズがすっ飛ばされてます?

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「だから榎本さんは、何も知らないことにして。あの日、会社帰りに、私たちは一緒に行動していない。それで通して?」  私たちがここへ来ている間、日本では時間が経っていないのだという。つまり榎本さんは、召喚され姿を消したあの瞬間に、舞い戻るのだそうだ。だが、私は行方不明状態である。 「まあ、異世界へ行ってしまいました、なんて言っても、絶対信じてもらえないよね……」  榎本さんは、少し考えあぐねたが、仕方なさそうに頷いた。 「じゃあ、私だけ帰らせてもらうね。よーし、帰ったらまた仕事だあ。あ、でもゴルフに行くんだった! 楽しみ」 「榎本さん。そのこと、なんだけどさ」  私は、思い切って口を開いた。このことは、ずっと心に引っかかっていたのだ。 「私、榎本さんに謝らないといけないの。ほら、榎本さんが増田さんと行くゴルフに、私も連れてってって言ってたじゃん? あれ、実は下心いっぱいだった。私、増田さんのこと好きだったんだ」 「――そうなの?」  榎本さんは、目を見張った。ごめん、と私は頭を下げた。 「二人のゴルフに加わって、あわよくば奪っちゃえって。……最低だよね」  榎本さんは、ちょっと黙り込んだ。さぞや怒っただろう、と私は彼女の顔色をうかがったが、ややあって彼女は意外なことを言った。 「まー、うっすらそんな気はしてたな」 「え、気付いてたの?」  そんな素振りは全然見えなかったが、と私は目を見張った。 「だったら、どうして一緒になんて……」 「断ったら、狭量に見られそうでさ」  榎本さんは、照れくさそうな顔をした。 「気にしてないよってアピールのつもりだった。私ってさばけてるからって。ある意味、演技?」 「そうだったんだ……」  根っからサバサバした性格だと思っていた榎本さんに、まさかそんな一面があったとは。私は、ぽかんと口を開けた。 「だから、さ。あざといのは、北山さんだけじゃないってこと。女は誰でも、あざとい一面があるよ」  ニコッとすると、榎本さんは立ち上がった。 「じゃ、そろそろ儀式の時間だから」 「うん、気を付けて。元気でね」  固く握手を交わし合うと、私は部屋を出た。
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