第十三章 領地巡りのその後は

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旅の初日は、ハイネマン家の別邸に泊まった。数ある別邸の中では最大級だそうで、戦争中に滞在した屋敷よりも、かなり豪華だった。  グレゴールは自室へ引っ込み、私はハイジの案内で、準備していたという部屋に通された。そこで、私はおやと思った。家具は一通りそろっているというのに、ベッドが無いのだ。 「寝室は、また別なの?」  私は、ハイジに尋ねた。すると彼女からは、とんでもない返事が返って来た。 「この屋敷に、寝室は一つしかございません。ご当主ご夫妻の寝室になります」 「――はい!?」  意味を理解するのに、数秒かかった。ハイジが、にこにこ笑う。 「ご安心なさいませ。必要なものは、全て持参しておりますので」  じゃん、という効果音が出そうな勢いで、ハイジは荷物の中から、寝間着を取り出した。透けまくったネグリジェだ。勝負! と主張していそうなデザインである。 (つまり、今夜ってこと……?)  完全に、予想外だった。書類上は夫婦になったとはいえ、初夜は結婚式後かと、何となく思っていたのだ。グレゴールも忙しくしていて、それどころではない雰囲気だったし。 (いや、当然といえば当然なんだけどね。でも、心の準備が……)  大体、このセクシーすぎる衣装は何だ。メルセデスの差し金のような気がしてならない。固まる私をよそに、ハイジは荷物の中から、あれこれ美容グッズを出し始めた。 「夕食の後は、湯浴みをいたしましょう! 徹底的に磨いて差し上げますので、楽しみになさってくださいね!」  楽しみにする余裕なんて、無いのだけれど。香油を手に、目を輝かせるハイジを前に、私は仕方なく頷いたのだった。  夕食時は、ほとんどグレゴールの顔が見られなかった。実は、私は処女なのである。お付き合いした男性は何人かいたけれど、いつもキス止まりだった。きっと、それほど好きではなかったからだろう。 (まさか、初体験を異世界でするとは……)  一方のグレゴールは落ち着き払った態度で、今日の視察の感想を語っている。彫りの深い端正な顔をチラチラ窺いながら、私は気持ちを奮い立たせた。 (大丈夫。好きな人と、なんだから……)  その後私は、宣言通りハイジに、徹底的に磨かれた。髪から体から綺麗に洗ってもらい、香油で肌をマッサージされる。薄く化粧を施された後は、例のネグリジェを着せられた。 「さあ、完成ですわ! こちらへどうぞ」  案内された寝室に一歩足を踏み入れて、私はぎょっとした。夫婦仕様にしても広すぎる巨大なベッドが、部屋の真ん中に置かれていたのだ。もちろん徹底的にベッドメイキングされており、室内ではほんのりと香が焚かれている。そこまでは、いいとして。 「明るすぎるわよっ」  ベッドサイドでは、ランプが煌々と輝いていたのだ。これでは、丸見えではないか……。何もかも。だがハイジは、しれっと答えた。 「この辺りは、夜になるとたいそう暗くなりますから。旦那様がいらっしゃった時に、灯りが無いときっとお困りですわ。転んで、お怪我などなさっては大変です」  では、と挨拶すると、ハイジはあっという間に出て行ってしまった。
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