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私は仕方なく、一人でベッドに潜り込んだ。ヘッドボードにもたれて、肌が見えないよう、布団を体に巻き付ける。ガウンを用意してもらうべきだったと気付いたが、もう遅い。
そこへ、控えめなノックの音がした。
「は、はいっ」
思わず、声が裏返ってしまう。入って来たグレゴールは、そんな私を笑うでもなく、穏やかな表情を浮かべていた。寝間着の上に、落ちついた雰囲気の、グレーのガウンを羽織っている。
「待たせたな」
グレゴールはガウンを脱ぐと、手近にあった長椅子に、無造作に放った。こんな格好の彼を見るのは初めてだから、どぎまぎしてしまう。薄手の寝間着の下からは、厚い筋肉が透けて見えた。
グレゴールは、おもむろに近付いて来ると、ベッドに腰かけた。
「ハルカ……」
「あのっ」
私は、思い切って打ち明けることにした。グレゴールが何かを言い出す(あるいは始める)前に、彼の目を見つめて告げる。
「その、実は……。私、初めてなのです。ですから……」
「ああ、わかっている」
「――はい?」
私は、きょとんとグレゴールを見た。彼が繰り返す。
「お前が処女なのは知っている、と言ったんだ。優しくするから、安心しろ」
「知ってらした……んですか?」
「当然だろう」
グレゴールは、何を言い出すのか、という顔をした。
「王太子殿下の側妃に、男を知っているような女を差し出せるか」
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