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「いや、でも……。そんな話、前にしましたっけ?」
さすがにそんな話題になったら、覚えていると思うのだが。するとグレゴールは苦笑した。
「聞かなくても、わかる。直感だ」
「そんなもの……ですかね?」
今度は、別の不安が私を襲った。果たしてそんなことが、断定できるものだろうか。
「怖いのか?」
グレゴールが手を伸ばして、私の髪を撫でる。私は、じろりと彼を見た。
「どれだけ経験豊富でいらっしゃるんです?」
「何だ、やきもちか?」
グレゴールが、クスクス笑う。私は、唇をへの字に曲げた。
「誤魔化さないでください。カロリーネ様だって、以前仰ってましたよ。上流貴族の方は、割と愛人を持つって」
「それは、無い」
グレゴールは、きっぱり断言した。
「確かにエマヌエルみたいな奴もいるが、ごく一部だ。特に俺は、ずっと仕事ばかりだったから。恋愛どころではなかった」
スッと、胸のつかえが下りた気がした。そんな私を見て、グレゴールはまた微笑んだ。
「可愛い奴だな」
「うう……。そういうこと言わないでくださいってば」
「いいだろう。嫉妬深いのは、俺も同じだ」
グレゴールが、ゆっくりと私の唇を塞ぐ。啄むようなキスが繰り返された後、やや性急に舌が入って来た。夕食時に飲んでいた、ワインの香りがする。
「んっ……」
グレゴールの舌が、私の歯列をなぞり、ねっとりと口腔内をまさぐる。やがてそれは、私の舌に絡みつくと、執拗に吸い立てた。
(気持ち、いい……)
うっとりとキスを堪能していた私だったが、不意にぎょっとした。グレゴールが、私の体を覆っていた布団を剥がそうとするではないか。反射的に腕を突っ張って抵抗すれば、グレゴールは唇を離した。妙な顔をしている。
「何だ?」
「だって……」
恥ずかしい、と伝えようとしたのだが、グレゴールは変な誤解をしたようだった。
「もしやお前のいた世界では、床入りについて教わる機会は無かったのか? そのままでは、男女の営みはできないが」
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