75人が本棚に入れています
本棚に追加
第十四章 異世界で成長できました
その後、グレゴールと私は、晴れて結婚式を挙げた。王太子夫妻が挙式したのと同じ、大聖堂である。その日は朝から晴れ渡っていて、天も祝福してくれているようだった。
(新婚生活は、とっくに始まっているけれど。やっぱり結婚式って、感慨深いわ……)
グレゴールに腕を取られて聖堂を後にしながら、私はしみじみと思った。
あの後王都へ戻ると、驚いたことに、本邸は完全に模様替えされていた。私の寝室は、グレゴールの寝室の隣に設置されていた。メルセデスとヘルマンによる、早業である。そんなわけで、挙式前にもかかわらず、私たちは完全に夫婦として暮らしていたのだ。
「ハルカ、おめでとう! 素敵なドレスね」
「アクセサリーやネイルも素敵だわ」
マリアとアンネは、駆け寄って来ると、口々に褒め称えてくれた。
ウェディングドレスは、私の念願だった純白である。王太子夫妻の結婚式の際に、私が漏らした言葉を覚えていたグレゴールは、最高級のシルクとレースをオーダーしてくれたのだ。
ネイルは淡いオレンジで、白い花がアクセントに付いている。私のおかげでキャリアアップできたと、元劇場のメイク担当者は、たいそう張り切ってくれた。
(でも、何より嬉しかったのは……)
私は、胸元のネックレスを見つめた。そこには、グレゴールから贈られた、ガーネットが光っているのだ。美しいオレンジ色である。
『初めて劇場で爪を飾った時、オレンジ色はお前によく似合うと思ったのだ』
グレゴールは、そんな風に言った。宝物にしようと、思っている。
礼を述べると、マリアたちはそわそわし始めた。
「ね、やるのよね?」
彼女たちの目当ては、ブーケトスである。ええと答えると、アンネは拳を握りしめた。
「絶対、キャッチするわよ! 王太子妃殿下からブーケをいただいたのがハルカで、そのハルカは、イルディリア王国一の有能宰相様と結婚したのだから。その次も、絶対に御利益があるはずよ」
「あら、キャッチするのは私よ」
即座に言い返した後、マリアは首をかしげた。
「メルセデス様、参加なさらないみたいね。こういうことは、ご興味が無いのかしら?」
メルセデスは、遠方から私たちをにこにこと見守っている。彼女の隣には、クライン公爵の長男・アルノーの姿があった。公にはしていないが、二人は正式に婚約したのだ。近々彼女は、生まれ育ったハイネマン家を出る予定である。
『新婚夫婦のお邪魔虫になりたくないのよね。でも、ハルカには会いたいから、また遊びに来るわよ』
婚約の理由を、メルセデスはそんな風に語っていたが、内心はまんざらでもなさそうである。案外、ツンデレらしい。
「ハルカ、盛り上がっている所を悪いが、少しいいか」
そこへ、グレゴールがやって来た。
「クリスティアン殿下から、急なご指示があった。この後、王宮まで来るようにと。ハルカ、お前も来てくれ」
「私も、ですか?」
何事だろう、と私はきょとんとした。クリスティアンとマルガレータからは、過分なほどの祝いの品を、すでにいただいているのだけれど。
「俺にもよくわからないが……。取りあえず、急ぐように」
言いながらグレゴールは、早くも踵を返したのだった。
最初のコメントを投稿しよう!