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「先生、春菜は治りますか?」
「処方された薬を正しく飲まなかったようですね……かなり重症です」
涙ぐむ紗希がヘナヘナと床に崩れ落ちた。和樹が優しく抱きしめている。
私は、ぼんやりと天井を見上げているだけ。口からヨダレが垂れても、なんだかどうでもいい感じ。
たった一回、薬を飲まなかっただけで私は元の私に戻った。身体はむくんで一回り大きくなり、最後に寝た男のDVによって、顔に火傷の痕が残った。
「豹変……豹変したのよーー!朝、薬、ない、ない、何にもないーーー」
「春菜!春菜!落ち着いて!」
背中を撫でてくれる紗希のその手を振り払う。同情なんていらないから!
「丸山さん、丸山さん。大丈夫ですよ、新しいお薬2錠、また飲んでいきましょう」
そっか、またお薬飲めばいいんだ。備人クリニックのお薬なら、私はまたやり直せるはず。
男、男、男。チヤホヤされて、甘い言葉に酔わされて、あの幸せな時間を生きられる。
「せんせ……お薬ちょ……だい」
「丸山さん、食後2錠。これからは守って下さいね」
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『効能』
・飲んだ瞬間からモテる
『用法・用量』
・毎食後 2錠
『使用上の注意』
・飲み忘れると効果がなくなる
『アナフィラキシーショック』
・飲み忘れると稀に……
備人クリニック
「食後2錠の幸せを、生かすも殺すも丸山さん次第でした。さぁ、夢の続きは夢の中で」
完
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