食後2錠の幸せ

11/11
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「先生、春菜は治りますか?」 「処方された薬を正しく飲まなかったようですね……かなり重症です」  涙ぐむ紗希がヘナヘナと床に崩れ落ちた。和樹が優しく抱きしめている。  私は、ぼんやりと天井を見上げているだけ。口からヨダレが垂れても、なんだかどうでもいい感じ。  たった一回、薬を飲まなかっただけで私は元の私に戻った。身体はむくんで一回り大きくなり、最後に寝た男のDVによって、顔に火傷の痕が残った。 「豹変……豹変したのよーー!朝、薬、ない、ない、何にもないーーー」 「春菜!春菜!落ち着いて!」  背中を撫でてくれる紗希のその手を振り払う。同情なんていらないから! 「丸山さん、丸山さん。大丈夫ですよ、新しいお薬2錠、また飲んでいきましょう」  そっか、またお薬飲めばいいんだ。備人クリニックのお薬なら、私はまたやり直せるはず。  男、男、男。チヤホヤされて、甘い言葉に酔わされて、あの幸せな時間を生きられる。   「せんせ……お薬ちょ……だい」 「丸山さん、食後2錠。これからは守って下さいね」 ───────────────────── 『効能』 ・飲んだ瞬間からモテる 『用法・用量』 ・毎食後 2錠 『使用上の注意』 ・飲み忘れると効果がなくなる 『アナフィラキシーショック』 ・飲み忘れると稀に……           備人クリニック 「食後2錠の幸せを、生かすも殺すも丸山さん次第でした。さぁ、夢の続きは夢の中で」               完
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!