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激しい雨に打たれながら私は泣いた。
どうせ誰も気にしてくれないし、心配してもくれない。
買ったばかりのキャミワンピースが、肌にベッタリと張り付く。身体の線をこれでもかと晒しながら。
ほんの10分前、私はフラレた。付き合っていると思っていたのは私だけで、アイツにとっては都合の良い女だっただけ。
「春菜さぁ、ホント料理下手だな。ぽっちゃり系は料理上手って嘘かよ……」
料理が苦手な私がレシピとにらめっこし、悪戦苦闘したイタリアンが、手を付けられずに冷めていく。
「ハァ……もういい。お前、役立たずにもほどがあるよな?とりあえずシャワー浴びろよ、最後だからな」
どうして抱かれてしまうのだろう。私にはプライドがないのだろうか?愛しているのだろうか、こんな男でも。
明かりもテレビもついたままの部屋で、甘い言葉も囁かれず、雑に扱われた最後の夜。
散らばった服をかき集め、合鍵を置いて部屋を出た。
「知ってるよ……アンタの本命は、地下アイドルのミリリン。ミリリン可愛いし、スレンダーだよね……」
先週買ったこのキャミワンピースも、ミリリンお気に入りのブランド。ミリリンが着ればさぞや似合うだろう。私が着れば今にも弾けそうで、ずっと浅い呼吸で我慢してた。
土砂降りの雨の中を、傘もささずに歩き出す。すれ違う人達は見て見ぬふりだ。
所詮私は、そのくらいの女。小学生から太りだし、ダイエットなどとうに諦めた。
一重まぶたはいつも腫れぼったくて、メイクしても意味をなさない。
名前からして腹立たしい。丸山春菜、あだ名は一貫して『丸ちゃん』、まんまる丸ちゃんまる虫まるちゃんだ。
30歳のバースデーに、私はフラレた。
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