食後2錠の幸せ

10/11
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「あの薬が身体に合っているんです先生!私……合わない薬が多くて──」 「……わかりました、丸山さん。引き続き同じお薬を出します。食後2錠、忘れずに。いいですか、ように」  クリニックを出ると、また停まっていたタクシーに乗る。ここを見付けてくれたタクシーの運転手は、したり顔でニヤニヤと発進させた。  小躍りで部屋に入り、薬で膨れた袋を撫でる。これくらいあれば一先ずは安心だ。  食後必ずカラフルカプセルを2錠飲む。私はますますモテて、毎晩がカーニバルだ。私に落とせない男などいないから、アイツとは別れる事にした。 「つまらない男」  泣き叫び、人目も憚らず縋り付くアイツを冷たい目で見下ろした。    紗希からの連絡を無視していたら、結婚式の招待状が送られて来た。 「ゲッ!マジで結婚するんだ!」  たった一回だけ飲んだカラフルカプセル錠の効能だとは思えない。思いたくもない。 「欠席──っと」  ベッドに倒れ込み、カプセル錠をつまんだ。私がモテ女になるキッカケをくれたカプセル錠。たった一回飲んだだけで結婚できた紗希は、幸せなのか不幸せなのか偶然なのか? 「たとえ薬の効能だとしても、紗希には結婚くらいがちょうどいいって事よね?独身だからずっと楽しめるのに」  古いベッドがキシキシと軋んだ。バイバイ飯友の紗希。  週末は、デートの約束で予定はパンク気味だった。不規則な生活だけど仕方ない、だって男が私を待っているから。  どうにか薬は飲めているけど、とにかく面倒くさいしシラける。デートの時はなるべく化粧室でカプセル錠を飲んだり、最近ではお酒に落として飲み干す技も覚えた。  でも、カプセル錠を飲めないシチュエーションってあるし。  いい雰囲気になった今みたいにね。大丈夫、彼が眠ったらすぐに飲めばいい。たかが薬じゃないの、いつ飲んでも効果は同じ。  
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!