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「もちろんそうです」
先生が当たり前のようにそう言ったから、お腹にそっと手を当ててみる。
食べ過ぎではなくて、胃痙攣とか、そうだ食中毒!何かにあたったとかじゃないの?
「明日には退院出来ますよ」
先生は私の肩を軽く叩いて、病室から出て行った。
ベッドから身体を起こしても、お腹はまったく痛くない。
「それにしても変わってる病室よね。天井が水玉模様……しかも色合いが微妙。そうだ、会社に連絡しなくちゃ」
私のバッグは簡易テーブルに置かれてあり、スマホもスルリと出てきた。
「えっ……なんで?」
日曜日の午後14時。紗希と別れてから1時間しか経っていなかった。1時間の間にこの病院に運ばれ、治療されて、今。
「病院に運ばれてラッキーだけど。食べ過ぎかぁ……失恋には付きものだしね」
──アイツに連絡したら、心配して来てくれるかな?
思い切ってかけてみるが、着信拒否をされていた。
「どうせまた、ミリリンに貢いでいるんでしょ?」
私とはリーズナブルな居酒屋で済ませて、アイツの部屋で欲望処理、ミリリンとはオシャレな店で食事して、ホテルで夜景を見ながら甘い時間を朝まで過ごす。
知っていたけど言えなかった。だって、捨てられるのは私だから。いつかミリリンに疲れて、私のところに──これも幻想。
「丸山さん、夕食です」
先生自らが運んで来てくれた夕食は、懐石料理のような美しい御膳で、思わずゴクッとツバを飲み込んだ。
「せ、先生?私、食べてもいいんですか?食べ過ぎで死にかけた患者なのに……」
「問題ありません。しっかり食べて下さいね?後、お薬は忘れずに」
先生がいいと言ったのだから、遠慮なくいただく。嬉しい、病院でこのクォリティ。元気に退院できそうだ。
味も満足、量も多めで私好みだった。
出された薬は2錠。派手な色合いのカプセルだけど、お水で流し込むとすぐに眠くなる。
「朝食が楽しみ……だ……」
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