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朝日が眩しい。昨夜は夕食の後、睡魔に抗えず眠ってしまった。食べ過ぎの腹痛と失恋と、色々あって弱っていたんだ私。
昨日のうちに会社にはメールを送った。仕事用のチャットには、心配するフリをした悪口が並んでいる。「鬼の撹乱」やら「バイキング女王」やらね。
「おはようございます、丸山さん。朝食の時間です。お薬は忘れずに」
また先生が運んで来た。どこの病院も看護師不足だけど、この病院もなのかな?って、朝食も凄い!パンも焼き立てじゃないの!
完食してお薬を手に取る。カラフルなカプセルで2錠だ。
なるほど。
天井の模様は水玉模様じゃなくて、カプセル模様だったのね?色合いがそっくりだった。
「何時頃に退院できるのかな……眠くなってきた……」
「丸山さん、丸山さん」
うーん……よく寝た。あ、先生?
「丸山さん、退院の時間です。その前に、お薬の説明をしたいのですが」
先生は、薬が入った袋を私の手のひらに乗せた。
「は、はい。すみません、眠くなってしまって……」
「良くなりましたね。でも念のため、このお薬を食後2錠服用してくださいね。20日分出しておきます。お大事に」
病院も先生もどこか変わっているけれど、腹痛は治ったし、何よりたくさん寝たせいか気分がいい。
「ありがとうございました」
私は入院費を精算して、玄関から出た。入り口にはタクシーが停まっていて、迷わずタクシーを使う。
見慣れない道を走るタクシーの窓から外を眺めていると、もう外は秋の気配だ。
バッグの中でスマホが震えた。
「えっ……」
かけてきたのは、私を振ったアイツだ。着信拒否の元カレだ。
──春菜……ごめん。春菜が忘れられないんだ。俺にもう一度チャンスをくれないか?
謝り続けるアイツが別人みたいに思えて、詐欺ではないかと疑い始めた時、運転手が「着きましたよ」と教えてくれた。
いつの間にか、自宅の前に着いていた。
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