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紗希はどうなるんだろう、1日くらい放置してまた呼び出せばいい。元々万年モテ期の紗希がさらにモテるのか、まったくモテなくなるのか。
「春菜……私ね、結婚するの」
ガチャンと耳障りな音を立てて、握っていたフォークがテーブルに落ちる。
──紗希が結婚?彼氏もいなかったはずなのに?
「言い出しにくくて……春菜はアイツと別れたばかりだったから」
「誰と結婚するの!?紗希って彼氏いた?」
ほんのりと頬を染める紗希は美しかった。
「もう!春菜には散々話していたのに。和樹さんしかいないもん」
和樹って誰?まったく記憶にない。照れながら、プロポーズされた日の事を話す紗希の輝きが眩しくて顔を背けた。
「そうなんだ……私、もう帰るね」
飛び出すようにお店を出て、足早に駅へと向かう。
紗希の結婚は、あの薬を飲んだから?それとも私が知らなかっただけ?この薬は、人生や記憶まで変えてしまうのだろうか。ならば。
「……あのクリニックを探さなくちゃ」
薬の効能だろうが、そうじゃなかろうが、あの薬はもう私のお守りだ。二日酔いだって楽になる優れものだし。
まだお腹の調子が悪いって言えば、処方してくれるはず。
「紗希よりも幸せになりたいしね?」
私は必死になって備人クリニックを探し出した。
「丸山さん、まだお腹が痛むと?」
診察室で先生と向かい合い、眉をしかめる。真っ白な壁紙の中で、天井だけがカプセル模様。今にもポトポト落ちてきそうなカプセル達は、先生が動くたびに光って見えた。
「はい……たまに痛みます。それが怖くて」
「……それでは別のお薬を出しましょう」
違う薬などいらない。お守り効果がなくなるのは嫌だ。
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