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土橋勇希は、その女を一目見た瞬間、体が凍り付いた。
彼が今いるのがお化け屋敷の中だから、その反応は当たり前とも思えたが、彼の内面では恐怖と魅力がないまぜになっていた。
勇希は27年間生きてきて、現実の女性に恋したことがなかった。
外見は良い方で、バレンタインには複数の女性からチョコレートをもらうのが常だったが、もらったチョコレートはそれを贈った女性の気持ちとは切り離して味わった。
どんな美人のアプローチにも心が動くことなくサラリとかわしてしまう彼のことを、一部の女性は意趣返しに氷の心の持ち主と決めつけた。
中には、同性愛者(ゲイ)ではないかと勘繰る女性もいた。
実のところ、勇希はゲイではなく2次元の女性を愛好するオタクに近かった。
しかし、彼には理想の女性に対するこだわりがあった。
アニメや漫画のように映像化、視覚化されて他人と共有できる女性像ではなく、文学や歴史の中に存在し、自分の想像力によって生命を吹き込まれるという、気難しい掟があった。
その容姿は西欧風の金髪碧眼、かと言って外国人が特に好きなわけではなく、現実との対比の結果、そうなった、
勇希の現実世界に存在しない理想の女性に遭遇する場所として。お化け屋敷は最適というより、穴場と言えた。
勇希は会社の同僚である緑子に誘われて、遊園地に来た。別にデートという意識はなく、緑子も同僚以上ではなかったが、夏限定のお化け屋敷に興味があったのだ。
緑子の方は誘った側でもあり、勇希を狙っていた。
それで、お化け屋敷を理由にOKされた時は、接近するチャンスだと心が躍った。
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