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夢記憶
「何してるの?」
私は、麗らかな春の夕日が差し込む教室の隅で、一人本を読む男の子を見つけた。私が問うと、彼は本から視線を動かさず答えた。
「見ての通りだけど?」
「読書中?」
君はこくりと小さく頷く。
「名前……」
「名前なんて、個人を区別することしか意味を成さない。現に、同姓同名の人間だっているだろう。つまり、僕が君に名を伝える必要がないということだ。勘違いされないよう伝えるが、僕が君の名を知ろうとも思わない」
「はぁ」
不思議な子もいるものだ。そんなことを思いながら窓の外を見て黄昏れる。
そもそも、何故私が放課後の教室に居るのかだ。
思い出すのも吐き気がする……
嘲笑う顔、顔、顔。
私を見下すあいつら。
見て見ぬ振りをするあの子。
気がつけば物が消える。
助けを求めれば馬鹿にされ。
大切な物ほどよく壊され。
この世に「守る」なんて言葉なんかなくて。
「ぅ……」
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