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頭は打たなかったと思うが、乾いた動物のフンの上に背中から倒れこむのを目撃してしまった。
――見なかったことにしよう。
「……気が向かないのだ」
「向く、向かないの話ではありません。権力者に人権なんてありません」
私たちは国を救っている最中だ。
すごく省エネなやり方で。
「神」は言った。「転生した世界で魂を救うために抗え」と。
私はきっと別の世界で何かの罪を犯したのだろう、神の望む生き方をしない限りは永遠に、死してもなお、同じ人物の人生に戻される。
(抗ったつもりで、いたんだけどな……)
一人で奮闘して、何度も失敗して、死ぬたびに同じ場所へ戻されて、万策尽きた私は、王子を巻き込むことにした。
結局、この国は聖女の覚醒無しで救われない。
どんなに私が引っ掻き回しても変わらなかった世界が、王家の血の者を従えた途端に動揺しているのがわかる。
もうすでに、いくつかの厄災を防ぐことに成功した私は、結局これが正解だったのかと、軽い絶望感を感じていた。
愚鈍な王子のおかげで計画は遅れている。
国の滅亡までもう二年もない。
まだぐずぐずと悩んでいる王子の尻を蹴る。
「だからって、リンファ嬢にキスだなんて……」
「意識を失っています。つべこべ言わずに、ぶちゅっとしてこい」
「犯罪じゃないのか?」
「こんなの、犯罪に決まってる!! 犯罪に手を染めるくらいの気概がなくて、国を救えるならとっくにそうしてる!」
リンファの淡い金髪が昏倒薬の影響で一部分だけ紫に染まっている。色が戻る前に事を済まさねば。
「1回だけ、1回だけだな。それ以上は無理だからな」
「く ど い !」
「うわっ、うわぁ、だめだっ、俺は……」
ファウストのタイを引いて赤い頭を近くまで寄せると、人慣れしていない初心な王子は途端に顔を赤くする。
「ふふふ、その勢いですよ」
ドンと押して、倒れたリンファの顔にファウストを押し付ける。
「……っ」
ファウストは抵抗したが、耳に息を吹きかけて怯んだ隙に、リンファの顔にファウストの顔を擦り付けた。
念のため頭を押して、グリグリと唇同士が擦れ合うようにする。
「はぁ、こんなことのために、どれだけ時間がかかるのよ」
顔をあげたファウストは、少し涙目で私を睨んだ。
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