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「私がこの場を防ぐ。君を死なせはしない。生きてくれ、この国と君の平和のためなら……」
ファウストは魔力の矢の前に立ちふさがる。
「ファウスト! なんて事を……私を庇うなんて」
倒れ込んだ逞しい体躯が、華奢な娘を包み込む。ファウストは目を潤ませた娘の頰に触れ、引き寄せると命を移し替えるようにして口付けた。
その瞬間、眩い光が辺りを包み、遠く地平線まで飛散した……。
********
「傘の先をこっちに向けるな」
クソ王子が私に向けて怒鳴る。
まだ16歳だが、よく鍛えられた体には大人以上の力が宿る。
「あらあら、まだ私にそのような口を利くのですか? ファウスト様、躾が足りませんでしたか!」
日傘を畳んで、ぽすぽすとファウストの赤い頭を叩くと、嫌そうに払いのけられる。
「だいたい、いつも、レアーナは説明が足りないんだ」
「あーら、私の言うことをきく約束でしょう? 私に受けた恩を忘れてしまったようですね」
私は今までに、何度もファウストの窮地を救っている。
「他国の王子に怪我をさせて外交問題にならなかったのは、誰のおかげだったか、思い出したかしら?」
「ぐっ……」
「ソニア殿下の発注したネックレスを千切ってしまったのを直してあげたのは?」
ファウストは人よりも腕力が強く、幼い頃は加減ができずに遊び相手に怪我を負わせることが多かった。
私が力との付き合い方を教える前は、牢に繋がれることもあったくらいだ。
私は日傘の長さだけ間をあけて、後に魔獣王子と呼ばれるはずのファウスト第二王子を見る。
「ヒロインと悪役令嬢だけが額に汗して世界を救う時代は終わりました。王子も頑張れ! もっと頑張れ! ハーレム要員として終わりたくなければ、さあ! 脳筋は私に従え!」
「何を言っているんだ……」
ファウストに理解される必要はない。
悪役令嬢に転生して更に何度も命を失った私は、今回こそ平和な老後が欲しいのだ。
もう繰り返される同じ人生はまっぴらだ。
「教えてあげたではないですか、聖女無くして世界平和無しですよ」
私たちが酷い方法で意識を奪った、聖女となる運命を背負った少女、リンファを囲んで押し問答している。
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