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男
『日曜日に会えないかな?』
社会人三年目の男は、仕事を終えて帰るや否や、メッセージアプリに言葉を打ち込んだ。
自室のベッドに仰向けになりながら、文に恋をまとわせる。
相手からの返事はすぐにきた。
『いいよ! レンジくんに会えるの嬉しい!』
それを見た男は、ニチャアと笑った。
『ノリコは、どこか行きたいところある?』
『うーん……。そうだ、駅ビルのレストランに行かない? この間テレビでやってたんだけど、フレンチのコースがすっごく美味しいんだって!』
『へー、それじゃあ、そのレストランに行こう。店の名前は分かる?』
『うーんと、ウホンコド・ディスチニだって』
『予約しておくよ』
『ありがとう! レンジくんって、本当にスマートでカッコいい!』
『そんなことないよ』
ノリコと会話をしていると、どんどん鼻が高くなる。心が弾む感覚を、大きな胸の律動を、ひさしぶりに思い出せる。男は、懐かしいキラメキに夢中になる。誰かの声も、何かの音も聞こえなくなるほどに。
『それじゃあ、日曜日の17時、駅前に集合で』
『うん! レンジくんに会えるの、楽しみにしてるね! おやすみ』
『おやすみ』
愛の挨拶を終えた男は、惰性の現実に戻される。誰もいない台所に行って冷蔵庫を開けると、作り置きのおかずを取り出した。
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