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 男は帰宅する。木曜日の夜のことである。 『レンジくん、今日もお疲れ様!』  ベッドに仰向けになり、いつものようにメッセージアプリを開く。 『本当に疲れたよ。上司が本当に頭のカタイ奴でさ』 『大変だね。レンジくんは要領がいいから、厄介ごとを押し付けられちゃうんだね。ゆっくり休んでね』 『そんなことないけどさ。日曜日にノリコと会うのが心の支えだよ』 『私もだよ! 同じだね!』  ノリコは受け入れてくれる。仕事の愚痴も、帰宅してすぐにベッドに飛び込むことも。だらしがないとか、気分を害するとか、小言を言わない。社会から解放される憩いの場を、自ら壊すような愚行はしない。 『そろそろ風呂に入るよ。ノリコも、しっかり休んで』 『ありがとう。レンジくんは優しいね! お風呂、ゆっくり入ってきてね!』 『できる限り。じゃ、また』 『うん! ごゆっくりー』  愛の交換を終えた男の夢が終わる。現実に戻った男は、溜息をついて起き上がる。  テーブルには、すでに温めてある惣菜が置かれている。だが、今は風呂の気分だ。気が変わったのだ。 (風呂の中で、ノリコに渡すプレゼントを考えよう。ノリコが好きなブランド、ブックマークしておいたはず……)  男は、ブックマークの中から、ネラ・ラパンのサイトを呼び出す。品定めは、入浴と食事の後だ。  男はそのページのまま携帯の電源を切る。真っ黒な携帯をテーブルに置くと、浴室へ向かった。
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