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女
女は台所に立つ。木曜日の夜である。
机の上には夕食がのっている。それに手をつけるより前に、料理に使った道具を洗っておきたい。面倒ごとは一刻も早く視界から消しておきたいのだ。
軽く湯気の出ていた料理は、どんどん冷めていく。女は内心で舌打ちをする。洗い物が終わるころには、無機質で味気ないものに変わっていた。
ようやく道具を片付けた女は、食卓に向かう。机の上のスマートフォンを手に取り、電源を入れると、控えておいた暗証番号を入力する。
先ほどまでのメッセージのやりとりを確認する。それを見た女は、ウフフと笑う。休日の予定が出来上がっていき、ゾクゾクとする。
(土曜日は、ネラ・ラパンのお店に行こっと)
女は壁掛けのカレンダーを見る。その近くの棚には写真がある。「ハッピーバースデー典子」と書かれたメッセージカードが、写真の右上についている。写真の中の自分は、幸福を全身で表現している。恋人からの祝福に、心から喜んでいる様子が、時を経ても伝わってくる。
そうだ、日曜日に、会いに行くのだ。
女は再び台所へ戻る。
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