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 土曜日の日中を、女はエステで過ごした。心と身体は繋がっていると言うもので、身体が癒されれば心も綺麗になる。  その帰りに女は店に寄る。看板に描かれているのは「ネラ・ラパン」の筆記体である。  店の近くに差し掛かった時、入り口から出て行く男性の姿が見えた。遠くだったため、顔までは分からない。 「いらっしゃいませ。フタエ様、いつもありがとうございます」  店に入ると、顔馴染みのスタッフが出迎えた。このブランドを贔屓にしており、通う回数も多いためか、スタッフに顔と名前を紐付けられている。 「新作のワンピースが気になって来たんですよー」 「ああ! 私も、フタエ様にお似合いだと思っていたんです! 早速お持ちいたしますね」  女には、お得意様として扱われている自覚がある。 「明日、彼とデートなんですよ。だから、見栄えのする服を着ていきたくって」 「そうでしたか。フタエ様、素敵な表情をしていらっしゃると思ったら、そのようなご予定があったのですね」  スタッフ相手に惚気ながら、女はワンピースを試着する。  鏡に映る自分は、男好みの愛らしく、いじらしい姿をしている。 「フタエ様、とてもよくお似合いですよ!」  スタッフの大袈裟に高い声に背中を押され、女は決断する。 「このワンピース、いただきます」  女は軽い足取りで店を出た。服は手に入れた。エステもした。明日の日中に美容院で髪を整え、ネイルをして、駅に行く。 「あれ……?」  店を出て、しばらく歩いた女は、何かを感じてふり返った。しかし、そこにあるのは、ディナーのために飲食店を目指す人々の山である。  気のせいだったのだろうと、女は家に向かう。  明日、男に会いに行くのだと。
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