2人が本棚に入れています
本棚に追加
女
女は車を降りる。
駅の駐車スペースは、満杯なことがほとんどである。だから、朝から停めていたのだ。同期にシフトを代わってもらうことができて、助かった。
車のそばで、女は、鞄の中身を確かめる。忘れ物はない。
会うための準備は万全だ。後は、顔を合わせるだけだ。
女は、駅前の雑踏を歩く。明日からの仕事に備えて帰宅する、そんな人々の間を掻き分けて、コツコツと進む。
そして、ついに見つけた。
らしくもない服を着て、見栄を張った髪型をして、背伸びをした腕時計をつけて——
そんな男を、見れば見るほど血が騒ぐ。
思えば思うほど憎らしい。
男の持つシックの紙袋が風に揺れた刹那、女は鞄に手を突っ込んだ。
手に持ったナイフで、パステルピンクのワンピースを刺した。
泥棒猫の赤黒い血が、駅前の広場を憎悪と喧騒で染め上げていく。
最初のコメントを投稿しよう!