#3

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 連絡も取らず無視をし続けたとしても、きっと律は家へやってくる。家へ来ても私には追い返すことなんてできないし、今の状態で二人きりの空間に耐えられそうもない。だったら覚悟を決めて自分から連絡をとって、カフェ等人目のあるところで会って話をする方が、精神的にもいいに決まっている。  あれから返信が遅れたことを謝罪すると、律はすぐに既読をつけた。案の定、これからこちらへ向かってくる予定でいたことを伝えられ、また心がヒュンっと冷えた。「私も今打ち合わせで外にいるから、カフェで会おう」と伝えると了解の連絡が来た。  律はいつでも誰にでも、特に私に対しては大げさなほどに、誠実な対応をする。そんな律に私も自分なりに精一杯応えてきたつもりだった。なのに今日の私は初めて律に嘘をついてしまった。仕事だなんてどの口が物を言うか。そのことを心苦しく思わないでもないが、どっちみち外に出る用事があるのも本当なので、重い腰を上げて準備をした。  周りに言っても信じてくれないほどには、私は律に愛されていて、その自覚も十分ある。伊達に8年も付き合ってない。律が私の自信のないところや、だらしないところも含めて、大事にしてくれていることは言葉の端々やその態度でしっかりと伝わっている。仕事を優先することも多々あるが、それでも私は彼の一番であって、常に気にかけてくれていることも、ちゃんと分かっているのだ。  「あの横峯くんが、アンタなんかを好きになるわけない」なんて、知らない女性に呼び出され、告げられることもしばしばあった。そんな呼び出しがあったことを私から律に告げたことはなかったが、律が私の知らないところで私を守っていてくれたのだろう。同じ女性からその後心無いことを言われることは一度もなかった。  そうやって律は、そんな心配を拭い去るだけの愛情と、誠意を持って私に接してくれる。 「大丈夫ですよ。私にとって貴女は一番ですから」  優しく目尻を落として、私の頭をゆっくりと撫でながら、律はいつもそう言ってくれた。私は未だにその言葉にも表情にも仕草にも慣れなくて、何も言わずに俯くのだ。ちゃんと分かってる。分かっているけど。 「…覚悟、ねぇ…」
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