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夕飯には、畑で取れたとうもろこしやきゅうりが並んだ。夕暮れどきに蝉の声がやかましかった。軒先から入ってくる風が心地よかった。
ただの素麺にも実家の味が感じられて――、
「ああ、オレ、帰ってきたんだなぁ」
と思わず声にしてしまった。
「大げさねぇ。それにしてもなんで急に帰ってきたが?」
「あー、そんな大した理由もねぇよ。ただまとまった時間もできたからさ『そうだ、実家にいこう』って思ったんだよ」
「やることないからって、随分な扱いねぇ」
「なんだよ、久々に帰ってきたのに」
そんなとき、玄関と扉が開く音がして「こんばんはー」という声が聞こえた。思わず胸が高鳴る。
「あら、千恵ちゃん」
幼馴染の千恵の声だった。呼び鈴も鳴らさずに勝手に入ってくる、そんな女子は千恵しかいない。
母は立ち上がり玄関へと歩いていく。
「おばさん、これ、ウチで取れたやつなんだけど、よかったら」
「あら、いっぱいのトマト! 嬉しいわぁ。ウチもさっき煮たやつなんだけどとうもろこしでも持っていってもらおうかしら」
「あ、匂いするなーって思ったんだ」
千恵と母のやりとりが聞こえる。オレも玄関に行って「よぉ、久しぶり」とか言ってみるか? さぁどうしようかとガラにもなくドキドキとしていた。
幼馴染相手に何を悩む必要があるんだ、オレは麦茶を飲み干して立ち上がった。
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