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【 宝物と言っても過言じゃぁない 】
ほとんど存在が薄い秋が終わろうとしている、もう随分と夜の気温がさがった頃。
今年こそ、もう冬を来せないんだろうな。と寒さでいつもより冴えた脳が現実や不安を突きつけてくる。脳は死ぬことを伝えてくるくせに、体は本能からか眠らせてくれない。いっそ眠りたいだけなのに、すぐにでも本当に死ぬぞ。と言っているみたいだ。
自分の体なのに、まるで三体がいるようで。一体誰がこの体を支配しているのか、分からない。まるで器になったよう。空っぽじゃないだけマシなのかもしれない。
人気のない周りを見渡す。現在僕がいるここは暗い路地裏。数歩歩けば明るい場所に出られるだろう。少し聞こえる声は甘い酔いしれた人間。ヒールの足音。おぼつかない足音。楽しそうな声。けれど、こっちの方が静かでいい。
もう夜中だろうか、まだ明るい頃からここにいる。寒さで震えてた時が遠くに感じる。冷たい手が自信にまとった薄いジャケットを握りしめる。少し大きめのそれはあの家に置いてあったものを奪ってきた。冬が来たら寒さを凌げないだろう。それでもまだ熱を保ててる理由は。背中に当たる排気口の熱。裏路地だからか表の店のものだ。けれど朝方には閉まってしまうだろう。
「寒いな…」
吐息はとっくに白く無くなっている。自身の体の温度が外気に同化しているみたいだ。冬は嫌いじゃない。このままいけば、この澄んだ空気になれるだろうか。
「寒いよ…」
「寒いね」
はっと意識が現実に戻される感覚。先程の自分の言葉に自分で返す。子供のような遊びをしていたらそれに自分以外の返す言葉があった。
視線をあげると目の前には自分と年がそう変わらないくらいの男の子。しんと澄んだ冬の目をこちらに向けている。
「寒いの…?」
「寒いね」
「そっ、か…お家、帰れば…?」
動揺か、久しぶりに人と話すからか、言葉が上手く出てこない。
「君は?」
「…僕は、お家ない…から」
「…」
そう答えると、男の子は何か考えるような、迷うような、きっとずっと自分より動揺しているよう顔をしていた。沈黙はそう長くはない時間…
「朝はもっと冷える」
「うん」
「君は多分死ぬと思う」
「知ってる」
「だから、一緒に来ない?」
「…なんで?」
「うーん…多分君が死にそうだから?」
「知らない、子だよ」
「…僕はさ明日の朝、またここに来て。君が死んでる所を見るのもいいと思ったんだ。…でもなんか、生きてるとこも見てみたいなって」
「?」
「だからさ、…君をここで助けて一緒にいれば生きてる時も見れるし。そのうち君が死んだ時も見れるかなって」
その時の僕は馬鹿で、君が何を言ってるのか意味なんてちっとも分からなかったんだ。でも君は生きてて良いって言ってるように僕には思えたし。話してる時の君は今まで僕が見てきた人の顔の中で、一番キラキラしてたから。
気づいたら彼に抱きついて、必死に頷くことしか出来なかった。何日もお風呂入ってないから、臭いし、汚いだろう僕を、君は何も言わずに着ていたコートで包んだ。
君はそのまま拾い物を抱えて持って帰るように、僕は置いてかれないように。君の腕に抱きついて一緒に帰ったんだ。
12歳(冬のはじまり)
【現在】(15歳)
「…ろ、」
眠たい、頭が重い。あの時の夢?を見ていた気がする。まだ俺がちっちゃくて、何も出来なかった時のやつ。
「ク、…。…ろ」
「んん、」
誰かが呼んでる気がする。大好きな優しい声で。
意識が覚醒し始めた。
「クロ。起きて」
「…?」
「ご飯出来たよ」
「ぅ。おはよ〜、澄明(スミアキ)」
「おはようクロ」
これは澄明と俺のお話。綺麗な澄明と頭が悪〜い?俺で、澄明のことが大好きな俺のお話〜!
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