たとえこの身が滅びようとも

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「はい、これで治療終わり」  ケインプとの戦闘を終えた機動隊員は基地に戻り、手当を受けていた。  誠は医療担当である彼の姉、真藤 香夜(しんどう かや)から治療を受けていた。治療が終わり、誠は隊員服を着用する。  先の戦いではサソリの尾による毒も幾らか受けたが、CADには解毒作用も含まれており、戦闘中に回復することができていた。だが、ケインプの爪による切り傷、サソリの腕に一度挟まれたためにつけられた傷は体に残っていた。 「マーくん、さっきの戦闘でCADを過剰に摂取してるね。いくら耐性があるからって過剰摂取は危険を伴うから、注意して使ってね。体への異常はない?」 「ああ、大丈夫だ。特に問題ない」 「……無理のしすぎは禁物よ。お願いだからCADを使いすぎないようにしてね」 「……すまない。もう少しなんだ。もう少しでみんなの無念を晴らせる。だから無理をさせてくれ」 「でも……」  誠は香夜の言葉を最後まで聞くことなく、治療室を後にした。  香夜の質問に『大丈夫だ』と答えたが、実際はそうではなかった。ひどい頭痛に、筋肉痛、終いには吐き気を催すほど体に異常が見られていた。彼女の言うようにCADの作用は大したものだが、その分副作用も強い。過剰に摂取してしまえば、身の危険を及ぼすことだってある。  だが、誠はそれを承知の上でCADを大量に摂取していた。  EISに全てを奪われたのだ。家族も、友達も、そして戦友も。みんなの無念を晴らすには彼らの巣を崩壊させ、地球から絶滅させるしかない。そのために自分は機動隊員となり、今ここに立っているのだ。 「やめろーーーー、うわぁーーーーーー!」  治療室を出ると雄叫びが聞こえてきた。見るとたくさんの看護師、看護婦の姿が見える。彼らは一人の機動隊員を取り囲み、暴走する彼の動きを止めていた。彼の前には倒れ込む看護婦の姿があった。看護婦二人が寄り添い、ハンカチで口元を抑えている。彼女の倒れ込む床を見ると血が撒かれていた。  誠は眉間に皺を寄せながら、その様子をまじまじと見る。  暴走する機動隊員はまるで目の前に怪物がいるかのように、目を血眼にして必死に腕を振ろうとしていた。EISとの戦闘後、一定数の機動隊員が陥る現象だ。  彼らに背を向けると誠は逃げるように自分の部屋へと歩いていった。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!