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瀬里菜の家は、小学校の時と同じ、市営住宅の別の階の部屋だそうだ。ほとんど何も変わっていない、この風景。
「麻衣子、よかったら明日にでも、ご飯、うちへ来ん?」
「えっ……」
瀬里菜の家、か。想定外ではある。でもまぁ……いけるか?
「いいの?」
「うん! 旦那も喜ぶし! ぜひ来てよ」
瀬里菜の旦那……。つまり、泉慎也くんにも会えるということか。それはちょっと、お目にかかりたい。
「ありがとう、じゃあ、お邪魔しようかな」
瀬里菜と別れて、ほど近い静かな実家に戻ると、5年ぶりに動き出したトークルームに、瀬里菜から『また明日』というカツオ人間のスタンプが送られて来た。
ふん。美人なのにオモシロ系のスタンプ使う私、ですか。
愛想を振りまく必要もないので、『ありがとう』とだけ返した。
玄関を上がって暗い居間をちらりと見ると、縁側でただぼーっとする父の姿が見えた。
「ただいま」
一応声をかけたら、静かに「おう」とだけ返事があった。
厳しかったあの父とは別人のようだ。
暗く、どんよりと湿った、散らかった実家。
母の姿はもうない。
二階の、埃っぽい元私の部屋に入って戸を閉めた。
さて。
決行は明日か。
中退したとはいえ、薬学部。少しは知識があった。
明日の食事中に、何とかコレを飲ませれば……。
私は薬の包みを握りしめて、拳に映る瀬里菜の細い足をグチャリと折った。
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