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「左様にございましたか。セルジオ様、これはオスカーがよく申していることです。物事には何事にも表と裏があると。光があれば影もあると。されど光がなければ影もできず、表がなければ裏もないと申します。
今、セルジオ様は、月明かりでお手の影をつくられました。これも月明かりがなければ影はできません。セルジオ様は光の部分だけをお考えになられたのではありませんか?団長は影の部分を思い哀し気なお顔をされたのではないかと私は考えます。
オスカーはこうも申します。同じ物を見ても見る者全ての見方があると。オスカーは弓術の担い手にて弓射の的を観る時は的の全体を観るのだそうです。
表だけを観ていては弓は的にあたらぬ。的へはあてるのではなく捕えるのだと教えられました。なれば団長とセルジオ様とでは同じ物事の見方が異なるのではございませんか?」
エリオスはセルジオの手の影の上に自身の手の影が重なる様に手をかざした。
「このように影を重ねると影は濃く、大きくなります。光が強ければ影も濃くなる。団長は光が強すぎて影が濃くならねばよかろうにと思ったのかもしれません。
人の頭の中も想いも言葉として伝えねば真はわかりません。団長が思われていることは団長でなければわかりません。ならばセルジオ様が感じられたことを手合わせの折に直接、団長へ尋ねられてはいかがですか?思い悩み、眠れぬよりはよろしいかと思います」
エリオスはセルジオへニコリと微笑みを向けた。
セルジオはエリオスの顔をまじまじと見る。
「・・・・エリオス。そなたは考えが深いのだな。私は、考えが浅い。バルドによく注意をされる。物事を一方向からだけ視てはならぬとな・・・・エリオス、感謝もうす!次の団長と手合わせの時に尋ねてみる」
トサッ!
そう言うとセルジオは仰向けに横になり天井を見上げ呟いた。
「同じ物を見ても見る者全ての見方があるか・・・・人の眼とはその者の『心』を表すのだな。見た者で良くも悪くも映る・・・・難しいことだ・・・・」
そう言うとセルジオは瞼を閉じた。
トサッ!
エリオスも横になるとセルジオの方へ身体を向け、そっと手をつないだ。
「セルジオ様、こうしていますと眠れます。オスカーは眠る時はいつもこのように手をつないでくれます。温かくございませんか・・・・」
エリオスはすぅと寝息を立て眠りについた。
「・・・・エリオス、眠ったのか・・・・バルドは眠れぬことが当たり前の私に申してくれるのだ。『人は眠れぬことを恐れる。されどセルジオ様は眠れぬことをも恐れぬ。今はそれでよいのです』とな。恐れるとはどのようなものなのだろう・・・・」
月明かりを眺めるとセルジオは再び瞼を閉じた。
バルドとオスカーはセルジオとエリオスの話声が聞こえなくなると目を開け視線を合わせる。
頷き合い、お互いの主を支える想いを強く受け止め合った。
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