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「・・・・さ・・・い。そ・・・ろ・・・・」
遠くから柔らかな声が聴こえる。
「そろそろ、戻ってきてください!目覚めて下さい!戻れなくなります!」
『うん?誰の声だったか?なんだ?手が温かい・・・・』
「目覚めて下さい!ご自身で目覚めないと強制的に戻しますよ」
『私に話しているのか?え~と・・・・あれ?何をしていたのだったか・・・・あっ!前世の浄化・・・・うん?眩しい?光?』
ハッ!
私は勢いよく目を開けた。
私の両手を彼女と桐谷さんが握っていた。朦朧としていると突然、頭痛が襲った。
「痛っ!頭が割れそうに痛い。いたた・・・」
誰に言うでもなくあまりの痛さに口をついて出た。
「そうなんです。強制的に戻すと頭痛が起こります。随分と深い所まで行かれていたので・・・・吐き気はありませんか?」
桐谷さんが心配そうに握る手に力を入れた。
「・・・・大丈夫です。頭痛だけです・・・・収まってきました」
両手が熱く感じる。閉じていた目を開けると両手を光が包んでいる様に見えた。
「・・・・両手が光に包まれている様に見えますが・・・・これは・・・・?」
私の質問に桐谷さんは少し厳しい目を向け答える。
「戻る場所の道しるべ、灯台のようなものです。相当、固く固く閉ざされていた蓋を開けて深淵に向かわれたので・・・・
ただ、まだ前世の全体を視てはいません。幾重にも重なって絡み合った糸玉の様になっています。
どうやら前世の中に前々世が封印されている様です。先に前々世の封印を解いて浄化をすることもできたのですが、全体像が視えないと浄化の方法が選択できないので、今日の所はそのままにしてあります。
まだ、幼少期ですね。前世で命を落とされたのが23歳です。そこまで前世を洗い出してから前々世を浄化します。その後で前世の浄化ですね。矢が刺さり、槍で貫かれ・・・・右腕が切り落とされていますから・・・・
整体やマッサージに通われても効果は一時的なものではないですか?刺さった矢と槍も一本づつ抜いていきますからご安心下さい。時間を掛けて少しづつでないと身体が持ちません。
抜歯と同じで一度に対処すると危険です。長く時間を掛けることのみご了承下さい。とにかく、いままでよく堪えてこれましたね!」
桐谷さんは遡った状況と結果を説明してくれた。
「そうですか。整体もマッサージもその時だけなのは確かです。この後はどうすればいいのでしょう」
私はこれからの進め方を確認する。
「そうですね。前世の一生を清算する必要があります。ただ、相当な体力と精神力が必要になるので一ヶ月に一度お会いするのが限度です。これから一年程をかけてじっくり浄化していくことになります。どうしますか?続けられますか?」
桐谷さんは厳しい目を向けたまま今後も前世の浄化を続けていくかの決断を求めてきた。
私は迷う事なく答える。
「はい、元よりそのつもりです。どんなに時間がかかっても構いません。確実に前世の浄化をしたいと考えています」
私がそう言うと彼女が微笑みを向けた。
「私もそうでした。前世を知り、浄化をすることで納得して今世を生きられると思います。楽になりますよ」
そうなのだ。私は楽になりたいのだ。
重く、のしかかるこの胸の辺りにある黒々とした塊を何とかしたい。子供の頃からそう思っていたことを思い出した。
「はい、よろしくお願い致します」
私は彼女と桐谷さんに頭を下げる。桐谷さんは頷いた。
「わかりました。では、次までに幼稚園から中学校卒業までの事を思い出して来て下さい。できるだけ詳細にどんな行動に対してどういう感情を抱いたのかをメモでも構いません。ご自身で洗出しをしてきて下さい。一月後にお会いしましょう」
桐谷さんはスマホへ日程を入れた。
「よかったですね。これから楽しみですね!」
彼女があの輝く笑顔を向ける。
彼女の笑顔を目にすると胸の辺りが熱くなる。
「ありがとうございます。よろしくおねがいたします」
御礼の言葉を伝えると解散となった。
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