第1話 プロローグ(前世の探究)

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個人情報をさらけ出す訳だから普段の私であれば一旦返答を持ち帰っていたはずだ。 勿論、彼女の知り合いで彼女が信頼を寄せている様子が(うかが)えたからこそ依頼をする気になったのだが自分のらしからぬ言動に正直、私自身が驚いている。 それから一月(ひとつき)後、彼女の知人とお会いした。 ウェーブ掛かった薄茶色の髪の長身の女性で穏やかな声音に柔らかい微笑み、初見は雰囲気が彼女とよく似ていると思った。 『霊視コンサルタント 桐谷(きりたに)沙夜(さや)』と記された光沢のあるパールホワイトの名刺を手渡され挨拶を交わすか交わさぬかのうちに 「これは!よくお独りでこれだけの荒波を越えてこられましたね!」 と告げられる。 「それは、今世のことですか?」 私の問いに桐谷さんは大きく(うなず)き続けた。 「はい!よく生きていらっしゃいますね!相当守りが強いです」 確かに・・・自分でも思う事がある。 「よく生きてこれたな」と。 桐谷さんは続ける。 今世での出来事は前世と深くリンクしているのだそうだ。 個人差はある様だが、人間は何度も転生を繰り返す。そして、その時代の生涯のおくり方で感情を残したまま終わりを迎える事が何度となく続くと感情が地層の様に幾重(いくえ)にも蓄積(ちくせき)され、自分では取り除く事ができない状態になるらしい。 聞きながら『仕事と同じだな』と思った。 問題を抱えたまま放置していると時間が経てば経つほど、解決の糸口を見出すプロセスが長くなる。 もう一つは『過去から引きづっているクセ』だそうだ。 思考グセと同義(どうぎ)と捉えた。 なるほど、思い当たる(ふし)は重々ある。子供の頃から感情を押し殺す事が美徳(びとく)と教えられ育った。その為、自分自身の奥底から湧き出る感情に『見ない、言わない、聞えない』を決め込むクセがついている。 そう思っていると 「言いたい事の三分の一も言えていないですね!特に怒りや悲しみには(ふた)をしてきています」 桐谷さんはサラリと言った。 『ドキッ!』なのか『ギクリ!』なのか桐谷さんが私の瞳から心の奥底へ入り込んでくる様に感じる。 (少し怖いな!全てを見透かされている様で・・・・) 桐谷さんの第一印象だった。
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