第六話 初めての衝動

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 「……」  今、キスしたら、千紘さん嫌かな。  なぜか今、ふと――キスしたいなぁと思った。  如月さんの言葉を借りるなら、キスしたいという気持ちが突然湧き上がった。  仮の恋人だから、キスはダメなのかな。  それとも、女性が嫌いだから、キスも嫌かな。  じーっと千紘さんの顔を見つめていたら、千紘さんが不思議そうな顔で「ん?」と首を傾げた。  その顔を見たら、また胸がきゅんとして。  また、キスしたいなぁという気持ちが湧き上がった。  「あの、ちょっと目を閉じてもらっていいですか?」  「ん? いいよ。何かついてた?」  千紘さんは私に言われるまま目を閉じた。  キスをしたい衝動に駆られた私は、了承を得ることもせず、千紘さんの顔にそっと近づいた。  「……」  き、綺麗すぎる。  なんてキラキラしているんだ。  触れるのをためらってしまうほどの顔面に、私は目的地を変えた。  ふわっとした前髪がかかる額に、〈ちゅ〉と、軽くキスをした。  「……」  「……」  ぱちっと目を開けた千紘さんと目が合った。  ばれてないかな。  「今、額にキスした?」  うん。しっかりばれていた。  「すみません。しました」  「……えっと、どうして?」  どうしてと尋ねられても、したかったからとしか言えない。  それ以外の理由が本当に見当たらないのだ。  「千紘さんにキスしたくなりました」  「……あ、のさぁっ…………っとに」  正直に白状した私に、千紘さんは落ち着かないように息を吐く。  嫌だったかな?  千紘さんとの心の距離が近づいているような気がして、つい調子に乗ってしまった。
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