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第一話 お神との出会い
「……ぅ~ん」
ぼけーっとする頭で、意識があるところまでの記憶を遡ってみる。
今回もまた締め切りまで一週間以上もあるというのにスイッチが入って、食べることも寝ることも後回しにして作業に集中してしまった。
23時過ぎ、担当編集の如月さんにファイルを送ったら、途端に吐き気を催すほどの空腹に襲われたのだ。
力の入らない体を引きずって冷蔵庫を確認してみるも、当然のように空っぽで。
こんな夜遅くにウーバーの配達員と会うのも嫌で、吐き気をこらえて行きつけのお弁当屋さんに行くことにした。
家の中ではほとんど寝間着に近い恰好で過ごしているから、外出するための身支度が本当に億劫だったけど、デニムとパーカーに着替えて、キャップを深くかぶって部屋を出た。
どの階にも止まらず、一階直通のエレベーターがあるというだけで、タワマンの最上階を選んだ。
不動産屋さんにタワマンを勧められた時、タワマンなんて自分の柄ではないことはわかっていたけど、最上階居住者専用エレベーターが引きこもりの私には非常に魅力的だった。
実際に住んでみると、必要以上に人と遭うこともなく、行き来も楽で、とても快適。
駅近で、マンションの隣にはスーパーもコンビニもドラッグストアもある。
ただ、引っ越してからお気に入りとなったお弁当屋さんは10分ほど歩かなければならないところにあった。
22時から24時の夜しか開いていない〈まごころ弁当〉さん。
私のような生活が不規則な自由業者には非常にありがたいお惣菜屋さんだ。
まごころ弁当を一人で切り盛りする店主の倉木さんは私の癒しでもある。
60代くらいの倉木さんはとても紳士で、いつも気さくに声をかけてくれるのが嬉しかった。
栄養バランスも彩りも良いだけでなく、温もりを感じるまごころ弁当のごはんは、消耗しきった心と体に優しく染み渡っていくのだ。
閉店まであと30分はあったけど、一秒でも早く美味しいごはんを食べたくて、急いで走った。
「……」
ところまでは覚えている。
その後の記憶がない。
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