第一話 お神との出会い

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 「はい。柴咲です」  《乃々花あんたまたゾーンに入ってやってたんでしょっ!》  「はい。如月さん、声がでかいです」  《おかまは声がでかいのよっ!》  「ああ。そうでした。すみません」  《チェックしたわよ。相変わらず完璧。お疲れ様、ゆっくり休んでねって言いたいところだけど、明日っていうか今日の昼までにチェックしてほしい案件あるんだけ、いけそう?》  「はい。大丈夫です」  《悪いわね。疲れてるのに》  「いいえ。如月さんに頼まれたことは断れません」  《ちょっとぉ、あたしに弱味握られてるみたいな言い方よしなさいよ》  「弱味ではありません。如月さんは大恩人ですから」  《あんたいつまでそんなこと言ってんの? あたしがあんたを発掘したみたいな言い方だけど、あんたはあたしと会う前からこうなる運命だったのよ。たまたま最初に声をかけたのがあたしだっただけ》  「それでも、自分の力だけではなし得なかったことです。如月さんとみなさんのサポートがあっての今ですから」  《っとにあんたさ、億万長者になったくせに。いつまで経っても同じこと言ってるわよね……本当に、あたしが女と仕事するのあんただけなんだからね》  「はい。もうそれ百回くらい聞いてます。ありがとうございます」  《あーもうっ、やだやだ。あんたと話してると自分が汚れきったおかまに思えて嫌になる。とりあえず、15分くらいで終わる作業だから、ちゃちゃっとお願いね。で、そのあと一週間は仕事入れないからちゃんと休みなさいよ!》  「はい。ありがとうございます」  《じゃーね!》  「はい。お疲れ様です」  如月さんとの電話を終えて、私はかばんを持った。  「すみません千紘さん。急きょ家に戻らなければならなくなりましたので、帰ります」  「もしかして、仕事? 父さんから在宅ワークだって聞いてるよ」  千紘さんは私の元に近づいてきて、私の手にある携帯電話に視線を向ける。  「はい。急ぎのようなので」  「わかった。家まで送るね」  「いいえ。タクシーで帰ります」  千紘さんだって仕事で疲れているだろうに、命の恩人にそこまでしてもらうなどできない。  私は千紘さんの厚意をきっぱりと辞退した。
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