第八話 ファーストキス

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 部屋を出てリビングに戻ると、すでに着替え終えた千紘さんがソファに座っていた。  上下黒の部屋着に着替えた千紘さん。  私服でこんなにラフな格好の千紘さんを見るのは初めてだった。  「お待たせしました」  「……うん。全然待ってないよ」  千紘さんはじっと私の姿を見つめていたけど、すぐにいつも通り穏やかな笑みに変わった。  「おやつと飲み物って、うちにはこれくらいしかなかったんだけど……」  申し訳なさそうにおやつと飲み物を披露する千紘さん。  千紘さんが用意してくれたおやつは、見るからに健康に良さそうな野菜チップスやドライフルーツなどの素材を生かした系だった。  そして飲み物も、瓶に入った濃厚果汁のリンゴジュースやオレンジジュース。  本音を言えばもっとジャンキーなものが良かったけど、そういうものは私の家に来てもらった時にしようと思った。  「ありがとうございます。嬉しいです」  「ごめんね。次はおやつもジュースも乃々花ちゃんが好きそうなものを用意しておくから」  なんか違うという気持ちが顔に出ていたんだと思う。  千紘さんの心苦しそうな声が申し訳なかった。  「でも、これはこれで楽しいです」  確かに私が想像していた映画鑑賞会とは色々だいぶ違うけど、これはこれでなんか面白い。  こんな感じの映画鑑賞は初めてだ。  「なに見る?」  「千紘さんは普段どんなジャンルを見てます?」  千紘さんはリモコンでネット配信サービスの開いた。    「僕は、推理ものとかミステリー、サスペンスとか、だいたいそんな感じかな。乃々花ちゃんは?」    「私はコメディです。何も考えずに頭の中空っぽで見れるものが好きです。海外のアニメもよく見ます」  「へえ。僕コメディは全く見ないなぁ」  「じゃあ今日はコメディにしましょう!」  「いいね。おすすめとかある?」  「最近だと、〈ぶっ飛んだ埼玉〉とか面白かったですよ」  「あ、それ知ってる。見たことないけど、ヒットしたよね」  「はい。もう一回見たかったのでいいですか?」  「いいよ。楽しみだなぁ」  あ、でも……大丈夫かなぁ。  結構低俗な映画(ほめてる)だけど。  勧めてから映画の内容に不安になったが、これもお互いをよく知るためだ。  私はこういうものが好きな人間だと知ってほしい。
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