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「千紘さん、もっとこっち来てください」
ソファが広すぎて、これでは別々に観ているような気分になる。
私は千紘さんを手招きしてもっと近づくように声をかけた。
「……うん。じゃあ、隣失礼します」
千紘さんは遠慮がちに私の隣に座り直した。
そして、映画鑑賞会がスタートしたのだった――
「あはははっ……はぁはぁ、苦しい」
勢い任せて隣に座る千紘さんの肩を何度もぱしぱし叩いてしまう。
千紘さんのことなど忘れてすっかり自分一人で楽しんでしまっていた私はふと我に返って、恐る恐る千紘さんの顔を見上げた。
「……」
千紘さん、なんて真面目な顔をして馬鹿な映画を見ているの?
だめだ。やっぱりこの人にはこんな映画を見せてはいけなかったんだ。
こんなものでお腹がよじれるほど笑い転げている私に内心引いてるかも……。
なんて不安がよぎっていたら、
「ぶっ! ふはっ、ははははっ」
千紘さんが、噴き出して笑った。
声を上げて笑っている。
しかもちょっと目に涙浮かべている。
なんだろう……。すっごく嬉しい。
自分が好きで面白いと思っているものを、千紘さんも面白いと思ってくれている。
そんなことが、すごく嬉しい。
それ以降はもう何も気にせず、私も映画に集中した。
一時間半の映画はあっという間に終わって、エンドロールが流れる頃にはお腹がほどよい筋肉痛になっていた。
「はぁーやっぱり面白かったぁ~」
見たのはこれで二度目で、ストーリーも全部知っていたのに、それでも面白かった。
「コメディ映画もいいね。いや、うん、すごく面白かった」
千紘さんも満足そうな顔で頷いていた。
「良かったー」
気づけば時刻は24時を過ぎていたが、仕事明けでハイになっていた私はまだまだ元気だった。
そしてあんなにごはんを食べたのに、映画を見て腹筋をして疲れたのか、ちょっとお腹が空いてきた。
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