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「千紘さん、私なんか小腹が空いてきました」
「えっ、本当に? じゃあ、なんか作ろうか?」
「いいんデスカ!」
「もちろん。明日予定もないし、今日は飲んじゃおうかな。乃々花ちゃんは?」
「私もお付き合いさせていただきます!」
全然飲める口ではないけど、おつまみさえあれば多少なら飲める。
「じゃあ、そんなにアルコール度数高くなくて、乃々花ちゃんでも飲みやすいもの選ぶね」
「わあ、ありがとうございます」
そう言って千紘さんが出してくれたのは、可愛らしい瓶に入った3種類の果実酒だった。
りんご、みかん、桃の果実酒はお酒が得意ではない私でも飲みやすそうだった。
そして、千紘さんはキッチンに立つと、ささっと手際よく二種類のおつまみを作ってくれた。
「こ、これはなんていう料理ですか!」
あっという間に作ってしまったけど、どっちも簡単に作った割にすごく美味しそうだった。
「料理というほどでもないよ。こっちは生ハムにかいわれ菜とクリームチーズを巻いてオリーブオイルとブラックペッパーをかけただけ。こっちはアスパラを焼いてパルメザンチーズをかけただけだ」
〈だけ〉がいちいちオシャレで美味しそうなのはなぜですか!
きらきらと輝く夜食兼おつまみに、食欲が湧き立つ。
「僕はりんごにしようかな。乃々花ちゃんは?」
「私、みかんがいいです!」
「みかんもいいね。氷入れていい?」
「はい。お願いします」
氷の入ったグラスに注がれたみかんのお酒は見た目だけならオレンジジュースのようだった。
24時過ぎにこんなに楽しい時間を過ごせるなんて、嬉しいな。
大人になってからこんなに楽しいと思う深夜は初めてかもしれない。
お酒とおつまみを持ってリビングに移動すると、私と千紘さんはどちらともなくグラスを掲げて、「「乾杯」」をした。
おつまみはお酒を飲んでいる合間にちょこちょこつまむもの。というのはわかっている。
「美味し~い」
けれど、おつまみが美味しすぎて、おつまみの合間にお酒を飲んでいた。
みかんの果実酒もとても美味しい。
成分のほとんどが果汁で、アルコールは少ししか入っていないため、ジュースのように飲めてしまう。
「あーもう、私、楽しいです~」
自分でも気づかぬうちに酔いがまわっていたようだ。
頭と心がふわふわして、気持ちが良い。
「うん。僕も」
千紘さんは果実酒を一杯飲んだ後、すでにワインを二杯飲んでいるのに、顔色も調子もいつも通りだった。
私は、千紘さんが楽しそうな笑みを浮かべているだけでは物足りず、唐突にあの無邪気な笑顔が見たくなった。
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