第八話 ファーストキス

18/21

1209人が本棚に入れています
本棚に追加
/166ページ
 「すみません。千紘さんの可愛い顔が見たくて」  「あれ可愛かった?」  「はい! とっても」  「そう、まあ君がそう言うならいっか。じゃあ、僕も乃々花ちゃんの可愛い顔見たいんだけど」  「えっ、いいですけど」  やはり自分も引っ張られるのかと思って、覚悟して待っていたのに。  「……」  「……」  いつまで経っても私の頬は伸びない。  千紘さんは私の頬を手のひらで包み込んで、じっと見つめているだけだった。  「あの、びょーんってしないんですか?」  「うん」  肩透かしを食らったような気分だ。  てっきり自分も同じことをされると思っていたのに。  「そんなことをしなくても乃々花ちゃんは十分可愛いから」  「……あ、ははは」  こんな至近距離で、真っ直ぐに可愛いと言われると、さすがの私でも恥ずかしくなってしまう。  「……可愛いなぁ。本当に」  そう言った千紘さんの瞳が、あまりにも綺麗で、そのまま吸い込まれてしまいそうだった。  気のせいか、どんどんお互いの顔が近づいているような気がする。  お酒のせいで距離感がわからなくなっているのだろうか。  だけど、千紘さんの吐息が私の唇に触れたことで、それは気のせいではないことがわかった。  もう二人の距離が残り10センチほどしかないところで、ようやく私は口を開いた。  「っあの……顔、くっついちゃいます」  さすがに、これ以上近づいたらぶつかってしまう。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1209人が本棚に入れています
本棚に追加