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私の手首から指先まで、千紘さんは自分の唇を這わせていく。
「…………っもう、やだ」
恥ずかしい。
こんなことをされるのも、本気で抵抗できない自分も、全部、全部恥ずかしい。
恥ずかしさと情けなさで涙が浮かんでくる。
今にも涙が零れ落ちそうな目で、千紘さんに訴えた。
「……そういう顔は、逆効果なんだけどな」
掴まれた手首にいっそう力が加わる。
千紘さんはぐっとこらえるような表情をした後、俯いて「はああっ」と大きく息を吐いた。
掴んでいた手首を名残惜しそうに離すと、今度は私の体をそっと抱き寄せる。
「……怖かった?」
千紘さんの温かな胸の中。
そこは、今までなら安心できる場所だったのに、今はもうドキドキが止まらない。
千紘さんの言葉を反すうして、考えてみる。
本当は考えなくても答えはわかっていた。
「……」
私は静かに首を横に振った。
怖くなんかなかった。もっといえば、嫌なこともなかった。
あの触れ合いも、湧き上がる感情も、すべて初めてのことばかりだったのに、戸惑いはあってもネガティブな感情は一つも生まれなかった。
だからこそ、止めたのだ。
あの触れ合いがもっと先に進んだ時、嫌がる自分を想像できなかったから。
「僕さ、前に言ったよね」
「……?」
「こっちは大人でいるの必死なんだよって」
「……ぁ、はい」
思わず額にキスをしてしまった時、確かそんなようなことを言われた気がする。
でもそのときは、言葉の意味がよくわからなかった。
「だからさ、簡単に触っちゃだめだよ」
「……」
「男は馬鹿なんだから」
千紘さんは馬鹿じゃないと思うけど、雰囲気的にすぐに訂正することはできなかった。
「触られたら触りたくなる」
「……はい」
触られたら触りたくなるという気持ちは私にもわかる。
自分の好きな人との触れ合いは好きだ。
だけど、千紘さんと私が望む触れ合いは少し異なるのかもしれない。
「だから……これから僕に触る時は十分気をつけて」
「……はい」
「ん。良い子」
そう言って、千紘さんはわたしの額にキスを落とす。
恥ずかしいのに、それが嬉しいなんて、私はやっぱりどうかしてしまったらしい。
ファーストキスは、全身が熱くなるほど恥ずかしかった。
だけど、恥ずかしいだけではなくて。
絶対誰にも言えないけど……本当は、もっと、したかった。
そんなふうに思う自分が怖くなった。
自分が自分でなくなってしまうようで、湧き上がる気持ちに蓋をした。
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