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第九話 噂の真相
「あっ、忘れるところでした!」
久ぶりに編集部での打ち合わせが終わり、ビルの前で如月さんに見送られようとした時、かばんの中に持ってきたものを思い出した。
私はカバンの中から小さな紙袋を取り出して、如月さんに手渡した。
「遅くなりましたが、こないだ箱根に行ったのでそのお土産です」
「へぇ、箱根…………えっ、はっ!? まさか倉木先生と二人で!?」
「はい。一泊でしたけど」
「いっ、一泊!? 泊したの? 泊したわけ!?」
言うタイミングがなくて、千紘さんと箱根旅行に行ったことを如月さんには伝えていなかった。
報告する義務はないから逐一言うこともないだろうけど、言わなかったら言わなかったで後が面倒になるのだ。
「はい。そうですよ。美味しいものたくさん食べて、すごく楽しかっ」
「おいおい、待てこら」
ドスの効いた声で言葉を遮られてしまった。
如月さんが見るからに不服そうな顔で私を睨みつけてくる。
その顔は完全に男のそれだった。
「そういう面白いことをなんで黙ってんのよ」
「面白いことって、そんなに面白いことはありませんでしたよ?」
ただただ楽しかっただけで、如月さんが食いついてくるような面白いことなどなかったと思うけど。
むしろ、箱根から帰ってきた後の方が……。
千紘さんの家に泊まった時のことを思い返したら、自然と顔が熱くなった。
「はっ? なにその反応!? えっ、えっ、えっ、ま、まさかあんた」
「えっ!」
まさか、キスされたこと勘づかれた?
如月さんの勘は鋭いから、私の反応で悟られたのかもしれない。
ドキドキしている私に如月さんはそっと顔を近づけて、
「捧げちゃったの? バージン」
「…………」
「えっ、マジ? マジなの?」
「…………」
「きゃーついに? お祝いしないとー」
「………違います」
如月さん。
私、全然バージンです。
てっきりキスされたことを悟られたかと思ったのに、如月さんは私の想像の上にいた。
私の冷静な反応を見て、キラキラしていた如月さんの目がすぐにつまらなそうな色に変わる。
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