第一話 お神との出会い

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 「大丈夫だよ。まごころ弁当の徒歩圏内でしょ? うちからも近いから」  千紘さんは私の返事を無視して、すでにジャケットを羽織り、車のキーを手に持っていた。  とっても優しい五穀豊穣のお神だと思ったけど、意外と強引なところもあるようだ。  「あの、本当に結構です。ここまでしていただいて今さらこんなことを言うのもあれなんですけど、」  「うん。じゃあ言わなくていいよ」  反論を許さない微笑みにたじろいでしまった。  千紘さんはゆったりとした雰囲気とは違う気質を持った人なのかもしれない。  私はそれ以上反論することをせず、千紘さんに言われるまま一緒に部屋を出た。  リビングを出て、長い廊下を歩いて、エレベーターに乗ると地下駐車場に着いた。  地下駐車場には10台は停められる駐車スペースがあり、その半分が見るからに高級そうな車で埋まっていた。  「乗って」  黒いセダンタイプの車に導かれて、言われるまま助手席に乗り込んだ。    部屋の広さといい、ホームエレベーターといい、駐車場の数といい、この人は一体何者なのだろう。  都内にこんな豪邸を建てられる人なんて……。  倉木さんはお弁当屋さんだと思っていたけど、この家を見るに、あれは本業ではなく趣味だったのだろう。  あまり詮索するのはやめよう。  どんな人であっても、助けていただいたことには変わりないのだから。  「住所入れるから教えてもらっていい?」  「あ、はい。〇〇区のKタワーです」  「ああ、あのマンションなんだ。確かに父さんの店からも近いね」  「はい。今のマンションに越してからよくお世話になっています」  「いつも贔屓にしてくれてありがとう。じゃあ出発するね」  「はい。お願いします」  ナビを見ると、倉木邸からうちのマンションまで車で15分ほどの距離だった。  生活圏内にこんな豪邸があったなんて知らなかった。  私の生活範囲が徒歩10分圏内だから知らなくて当然といえば当然だ。  地下駐車場を出て何気なく後ろを振り返ってみて、要塞のような家の大きさに改めてぎょっとした。
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