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なんだかこの調子でお小言でも言われそうな空気を感じて、さりげなく逃げようとした時だった。
「ねえ、あなた」
突然後ろから、女性の声が聞こえて、思わず振り返ると。
そこには20代後半くらいの綺麗な女性が立っていた。
女性はそばにいる如月さんではなくしっかりと私を見ていたことから、〈あなた〉は私のことだったのだろうけど、私はその女性を知らなかった。
「クリエイターの乃々ってあなたでしょ?」
だけど、女性は私のことを知っていた。
メディアには一切顔出しをしていないため、一般の人は私が乃々であることは知らない。
私が乃々であることを知っているのは一部の業界の人だけ。
つまりこの女性も業界の人ということになる。
そこまではすぐに理解できたけど、なぜこの女性が私に〈敵意〉を向けてくるのかは考えてもわからなかった。
「失礼ですが、どちらさまでしょうか?」
不穏な空気をいち早く感じ取った如月さんが女性から私を守るように前に出る。
「私、作家の朽木ゆらです」
「……ああ」
彼女の名前を聞いた途端、如月さんは冷ややかな声で何かを察したように軽く頷いた。
「知り合いから聞いたんです。彼女が倉木先生につきまっていると」
「つきまとっている? あなたのお知り合いの方は、随分事実をあらぬ方向に捻じ曲げてあなたにお伝えしたようですね。それとも、あなたが勝手に捻じ曲げられたのでしょうか?」
如月さんは嘲りにも似たような声音で彼女に反論した。
一方の私は、如月さんの後ろで自分の行動を振り返ってみた。
千紘さんにはお世話になっているけど、つきまとった覚えはない。
私と千紘さんが一緒にいるところを見たということは、恐らく〇〇出版の創立100周年記念パーティーの時だろう。そこに参加していた誰かが彼女に教えたのだろうか。
「失礼なことを言わないでいただけますか? 私はただ、倉木先生にご迷惑になるようなことをされては先生の執筆に悪影響を及ぼしますと忠告しにきただけです」
「忠告? はっ、あなたが?」
如月さんは彼女を小ばかにしたような言葉を向ける。
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