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最終話 特別な気持ちの正体
朽木ゆら出現後、自宅待機をして一週間が過ぎた。
私は如月さんに言われた通り、仕事はほどほどにして、基本的にはのんびり過ごしていた。
こんなに時間があるなら鎌倉に帰ろとも思ったけど、万が一のことを考えてそれは止めておいた。
「乃々花、ケーキ買ってきたわよ」
「わぁーありがとうございます!」
如月さんは、昼夜問わず食事と差し入れを持ってちょこちょこ私の様子を見に来てくれた。
大きい案件も終わって、正直暇を持て余していたから、如月さんの来訪はとても嬉しかった。
「昨日朽木ゆらの母親と面談してきた」
「ええっ!」
「あたしと例の後輩と、そこの編集長の三人で」
思わずケーキを食べようとしていた手が止まる。
「母親によると、一年前に事件が起きた後すぐにメンタルクリニックに連れてったそうなの。で、週に何回か通ってだいぶ落ち着いてたんだって」
「……そうだったんですか」
「だけど、夏が過ぎた頃に、来年放送する倉木先生脚本のドラマの解禁情報をテレビで見ちゃって、そこからまたちょっと元に戻っちゃったそうよ」
「……なるほど」
「手あたり次第に作家仲間に連絡とり始めて、なんとか倉木先生の現状を把握しようと必死だったって。でも、変に刺激してまたおかしなことをしたらと思って、行動に移すこともなかったから母親は見守ってたんだって。もう入院させろよってあたしは思ったけど」
如月さんは呆れた口調でさらに続ける。
「彼女の父親ね、仕事の関係でオーストラリアにいるんですって。娘の朽木ゆらが日本にいたいってどうしても言うから単身赴任にしてたけど、こんな状態なら無理やりでも連れて行くって母親が約束してくれた」
「……そうですか」
もしそうなれば、少しは安心できる。
「彼女の母親は少なくとも話が通じるまともな人だったから、信用していいと思う」
如月さんはふうっと息を吐くと、紅茶に口をつけた。
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