最終話 特別な気持ちの正体

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 「……」  ちょっと、勝手すぎやしませんか……。  私の返事など聞きたくないとばかりに、一方的に喋って終わるなんて。  かけられた言葉は優しいのに、その態度は全然優しくない。  悲しくて、そしてちょっとだけむかむかする。  私だって、5分でも会いたい。  すごくすごく会いたいけど、今はだめなんだ。  思い立ったら行動! が、我が家の家訓なのに、それができない今がとてももどかしい。  「うにゃ――!!」    ぐちゃぐちゃになる心を発散させるために、ベッドにダイブして思いきりじたばたした。 ◇◇◇  一日、また一日と自宅待機をして過ごしていたら、暦は12月に入ってしまった。  如月さんのおかげで食事には困らなかったし、もともと引きこもり生活が長いから、二週間家から一歩も出なくてもストレスが溜まることもなかった。  バルコニーに出て太陽も浴びていたし、動画を見ながら軽い運動もしていたから、体も健康そのものだった。  「……」  だけど、心は日に日に元気を失くしていた。  いつもなら、引きこもり生活最高と心の中で小躍りしている自分がいるのに、今の私は心の隅っこで体育座りしてしょぼくれている。  理由はわかっている。  千紘さんに会えていないからだ。  「……」  千紘さんが足りない。  千紘さんとの時間がなさすぎて、心が痩せ細ってしまいそうだ。  不健康にならないために、ひとまず昨日如月さんから差し入れでもらった豆大福を頬張った。  「……美味ひい」  心が満たされなくても、豆大福は美味しかった。  どんなにしょぼくれても食欲はなくならない自分に乾いた笑いが出てしまう。  お茶を一口飲んでぼーっとリビングの窓から東京の街を見つめていると、電話が鳴った。  勢いよく携帯電話を手に取って、  「……なんだ」  相手を見て、がっかりした。  私は一呼吸置いてから電話に出た。
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