最終話 特別な気持ちの正体

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 ひとまず編集部に入った私たち。  会議室を借りて、奥の席に千紘さん、その向かいに野口さん山本さん如月さん私の四人が座っていた。  絵面だけでいえば千紘さんが取り調べを受ける側なのに、実際は私たち四人が犯人のように縮こまっていた。  「倉木先生は今日どうしてこちらに?」  いつになく顔が強張った如月さんが、四人全員が思っていたことを尋ねてくれた。  千紘さんは表情のない顔で如月さんに視線を向けて、ゆったりと口を開いた。  「突然、村瀬社長から電話があったんです。面白いものが見れるから来るといいって」  「……あの狸爺っ」    如月さんが舌打ちをして憎らしそうに呟く。  村瀬さんがなぜそんなことをしたのかはわからない。  解決したことを当事者である千紘さんに伝えないのは不自然だとでも思ったのだろうか。  それとも、千紘さんが言った言葉の通りなら〈面白そう〉だから?  「説明していただかなくとも、このメンバーを見ればだいたいの予想はつきます」  そう言って、千紘さんは野口さんから順に一人ずつ視線を向けていく。  最後にばちっと目が合って、思わず逸らしてしまった。  「彼女が、乃々先生に接触したんですね?」  確認するように、千紘さんは野口さんと山本さんを見る。  先に口を開いたのは野口さんだった。  「申し訳ありませんっ! 自分がきちんと状況を把握していれば、乃々先生にご迷惑をかけることもありませんでした」  「いえっ、私が野口にまかっせきりだったのが悪かったんです。申し訳ありませんでした」  真っ青な顔で謝る野口さんをかばう山本さんの顔色も土気色をしていた。  私にとっては優しい千紘さんでも、編集部の人にとって〈倉木先生〉は厳しい人なのかもしれない。  なんだかいたたまれなくて、私は思い切って「あの、」と声を上げた。  「接触といっても、声をかけられただけで結局なにもなかったですし。彼女も海外に行ったということですし、もう解決ということで」  「なぜ僕に黙っていたんですか?」  私の声にかぶせるように、千紘さんの言葉が放たれる。  私に向けられた冷静な表情は、怒っているようにも見えるし、悲しそうにも見えた。  「……私が、言わないでほしいと言ったんです」  千紘さんの言葉は私たち全員に向けられたのだろうけど、千紘さんに黙っていてほしいとお願いしたのは私だったから、私が答えた。
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