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「どうして? なぜ言ってくれなかったの?」
千紘さんの表情が崩れ始める。
「言えば、千紘さんは気に病むだろうと思ったから。心配かけたくなかったというのもありますし、もしも千紘さんに危害が及んだらと思ったら」
「僕のことなんてどうでもいい!」
静かな会議室に千紘さんの感情的な声が響いた。
感情を露わにする千紘さんがよほど珍しいのか、野口さんと山本さんが目を見開いたまま固まっていた。
「……どうして何も言ってくれなかったんだ」
苦しそうに思いを吐露する千紘さんを見ていたら、胸が痛くなった。
「僕のせいで君が辛い思いをしていたのに……何も知らずに……何もできなかったことが、許せないんだ」
千紘さんは普段二人でいるときのような口調に変わっていた。
そのせいで、私も三人がいることを忘れて、千紘さんに返事をしていた。
「そんなふうに思わないでください。私、辛くなんかなかったです。すべて解決すれば、千紘さんが安心して生活できるって思ったから……私が唯一辛かったのは、千紘さんに会えないことだけでした」
会いたかった。
あなたに会えないことだけが辛かった。
「「えっ」」
野口さんと山本さんの戸惑ったような声が聞こえた気がしたけど、そんなことどうでもよかった。
「僕だって会いたかったよ。ずっと、君のことばかり考えてた」
「私、本当は5分だって会いたかった! だけど彼女のことが解決しないうちは家から出れなくて……」
「そうか……僕はてっきり、会いたいと思っていたのは僕だけで、君にとって僕との時間なんて大したことではないんだと思ったら、悲しくて……」
「だから勝手に電話を切ったんですか?」
「……ん。大人げないことしてごめん」
「いいんです。誤解だってわかったから」
三人の存在を無いものとして会話を続ける私たちに、「はいはい。お邪魔虫たちは退散しましょう」と言う如月さんの声がうっすらと聞こえた。
如月さんが、ぽかーんとする野口さんと山本さん二人の首根っこを掴んで部屋を出て行ったことにも気が回らないほどに。
私の世界には千紘さんしか映っていなかった。
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