最終話 特別な気持ちの正体

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 「嘘ついてごめんなさい」  私は椅子から立ち上がって千紘さんの側に駆け寄った。  「本当に悪いと思ってる?」  千紘さんも椅子から立ち上がる。  「思ってます!」  私は千紘さんの服を掴んで、彼を見上げた。  「じゃあ君からキスして」  「へっ!」  千紘さんの容赦ないお願いに、ぶわっと顔が熱くなる。  私の顔を真っ直ぐ見下ろす千紘さんの目は真剣そのもので、額にちゅっとしたくらいでは許してくれそうになかった。  「……屈んで、ください」  胸がドキドキして震えそうになる声で千紘さんに告げる。  千紘さんは言われた通り、私の身長と同じくらいの高さまで顔を下げてくれた。  千紘さんの顔が自分のすぐ近くにあるせいで、心が落ち着かない。  「……」  ドキドキしすぎて、胸が苦しくなる。  あんなに触れたかったのに、いざ触れるとなると、緊張して手に汗がにじんでくる。  でも、触れたい。  ずっと、触れたかった。  「……んっ」  千紘さんの肩に手を置いて、私は彼にキスをした。  そっと触れるだけのキスをして、すぐに離れるはずだったのに、  「んっ!」  体を引き寄せられて、深いキスに変わる。  唇が混ざり合う口づけに驚いて、思わず腰が引けそうになったけど、ぐいっと腰を押さえられたことで逃げられなくなった。  「……っ……ん……」  呼吸をする隙間もないほど繰り返される触れ合いに、頭がぼーっとしてくる。  「……ちひっ……もっ……」  酸欠する……。  確かにキスをしたいとは思っていたけど、このまま続けば死んでしまう。  編集部で死ぬなんて、嫌だ。  私は、千紘さんの胸元をトントンっと叩いた。  「……もっ……やっ」  何度か叩いてから、ようやく千紘さんの唇が離れていった。  急いで深く息を吸っている私をよそに、名残惜しそうに私の頬と額に、キスを落としていく千紘さん。  「……くすぐったいです」  千紘さんはキス魔だったのか。  嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい。  「ごめんね。でも許して。乃々花ちゃん不足でどうにかなりそうだったから」  千紘さんは切ない声でそう言うと、私をぎゅうっと抱きしめる。  「……私もです」  千紘さんも私と同じ気持ちだったんだ。
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