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私も千紘さんが足りなくて、心が枯れてしまいそうだった。
会えて嬉しい。
こうやってまた千紘さんの胸の中にいれることが嬉しくてたまらない。
改めて千紘さんに会えたことを実感して、感情が高ぶっていく。
「千紘さん、千紘さんっ」
千紘さんの存在を確かめるように、強く抱きついた。
「千紘さん、会いたかったっ……私、会いたかったんですよー」
大好きなシトラスの香りを思いきり吸い込んだ。
最後に会ってから二週間しか経ってないのに、すでに懐かしく感じるほど、待ち焦がれていた香りに、不思議と涙まで浮かんでくる。
「僕も。僕の方が、会いたかった」
背中に周る千紘さんの腕がいっそう強くなって、少しだけ痛かったけど、千紘さんの思いとともに受け止めた。
このまま時が止まってしまえばいいのにと本気で思っていたけど、
「ちょっ、野口どけっ」
「先輩こそ、もっと詰めてくださいよっ」
「お前ら野暮なことはやめろ」
「「山本編集長だってガン見してるじゃないですかっ」」
ドアの隙間からそんなやりとりが聞こえ始めて、はっと我にかえった。
その後、私と千紘さんは三人に挨拶をして、編集部を出た。
正直、どんな顔で何を言ったのかははっきりと覚えていない。
千紘さんと一緒にタクシーに乗った私は、千紘さんの家に来ていた。
その間、千紘さんは何も言わなかったし、私も何も聞かなかったけど、それはとても自然な流れだった。
広いリビングに着いて、ソファに座った千紘さんに促されるように私は彼の膝の間に座った。
「……しばらくこうさせて」
後ろから千紘さんの腕が回ってきて、私のお腹で千紘さんの手が組まれた。
私の首筋に顔を寄せて、千紘さんは息を吐いた。
「ずっとこうしていたいところだけど、君に話したいことがあるんだ」
「話したいこと?」
耳元に千紘さんの息がかかって少しくすぐったい。
話すことがあるなら顔を突き合わせ方がいいのではと思ったけど、顔を見合わせない方が話しやすいことなのかもしれない。
私は千紘さんの気持ちに寄り添うように、後ろに意識を向けて「はい。どうぞ」と頷いた。
私が返事をしてから、千紘さんは「うん」とつぶやいて、それから少し間を置いて言葉を紡ぎ始めた。
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