最終話 特別な気持ちの正体

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 「最後に会ったのは中学校の卒業式の日で、父さんが呼んで顔を会わせてくれたけど……やっぱり無理で。こないだ20年ぶりに会ったけど、やっぱりあの人を許せないと思う自分がいた。正直、許す必要もないって今も思ってる……向かい合って話をするには、まだ時間が必要だと思った」  「……はい」  それはとても難しいことだと思う。  千紘さんはその時深い傷を負って、大人になった今でもその傷は癒えていない。  千紘さんのお母さんは倉木さんの妻としてだけでなく、千紘さんの母親としても彼を裏切ったのだから。  もう許してあげたらなんて、そんなことは思わない。  千紘さんが嫌だと思うなら、許す必要なんてない。  千紘さんの心のままに、行動すればいいと思う。  「でも皮肉だよね。脚本家になって名前が売れるようになると……邪な笑みを浮かべて声をかけてくる女性も増えて……うんざりしてた。その笑顔を向けられるたびに、気色悪いって……どんどん心が冷めていった」  千紘さんの声はぞっとするほど冷ややかで、私には言わないだけで、心の中ではそれ以上の嫌な思いを抱いているように感じた。  そんなことを経ての朽木ゆらの件が積み重なれば、ほとほと女性に嫌気がさしていたに違いない。  「自分でも自意識過剰だって思うほど、すべての女性を警戒してた時だよ……君に出会ったのは」  「……へっ?」  私?  急に自分に矛先が向いて、間抜けな声が出てしまった。  「乃々花ちゃんは気づいてなかったから言わなかったけど、僕たちが初めて会ったのは君が倒れるよりもずっと前なんだよ?」  「…………ええっ!?」  驚きのあまり思った以上に大きな声が出てしまった。  私と千紘さんの出会いは、私が空腹で道端で倒れた夜のこと。  千紘さんのことを五穀豊穣の神様と勘違いしたのが、私たちの始まりのはず。  「その前に二回会ってるんだ。父さんの店で」  「……うそだ」  「本当。まあ、君は僕の顔全く見てなかったから、覚えてなくても納得だけどね」  「なんで! どうやって……えっ、えー」  こんなに綺麗な男性と二回も会ってるなら絶対に忘れないはずだ。  だけど、思い出そうとしても全然思い出せない。  「思いだしたいので教えてくださいっ!」  私はがばって後ろを振り向いて千紘さんに懇願した。  千紘さんは笑いながら「あれはね」とその日のことを思い出すように教えてくれた。
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