第二話 再会の乾杯

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第二話 再会の乾杯

 「風太郎~」  古都、鎌倉の山奥にひっそりとたたずむ平屋に私はいた。  今から3年前、私が二十歳の時に母のために建てた家だ。  母がいる家なので、私にとっては実家ということでいいだろう。  中学生の時、あることがきっかけで不登校になった私は、イラストソフトでイラストを描くことにはまった。  もともと絵を描くことが好きだった私は、朝から晩まで一日中イラストを描いていた。  そして、柴犬の風太郎が日本一の柴犬になるべく日本を旅するというストーリーの四コマ〈風太郎が行く!〉をSNSに投稿し始めた。  これが驚くことに瞬く間に人気を集めて、中学3年生の時に出版社から声がかかった。  その時私に声をかけてくれたのが、如月さんだった。  〈風太郎が行く!〉は漫画になって、その後アニメになって、長編アニメーション映画にもなった。  グッズ化もして、さまざまな企業とのコラボもした。  通信制の高校に進学した私は勉強以外の時間をすべてイラストを描くことに注いだ。  そして高校を卒業する頃には、私は億万長者になっていた。  新しくイラストを描かなくとも、漫画の印税以外に映像関係やグッズなどの権利使用料というものが都度入ってきて、今は漫画の続きをマイペースに描いているだけで、一生暮らしていけるほどの余裕がある。  使いきれないほどのお金が入ってきても、私の生活は変わらなかった。  ブランド物には興味がないし、派手なことも好きじゃない。  フォアグラより肉じゃがの方が好きだし。  海外旅行に行くより家でごろごろ過ごす方が好き。    ただし、仕事柄一日中家にいるから住処にだけはお金をかけた。  食べることが幸せだから、食費にお金は惜しまないことにもしている。  だけど、そんなことよりも母に広い庭付きの家を買って、苦労させずに好きなことだけをしてもらえる生活をプレゼントできたことが一番嬉しい。  「乃々花~ごはんできたわよ~」  「はーい」  鎌倉の家には、50歳の母と10歳の柴犬、風太郎が住んでいる。  仕事がひと段落すると、私は鎌倉に住む母に会いにきていた。
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