第二話 再会の乾杯

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 私も母と一緒に鎌倉住むことも考えたけど、仕事の関係上、東京にいた方が色々と不都合がないから、一人でマンションに住んでいる。  小学校に上がる前に父が病気で亡くなって以来、母は女手一つで私を育ててれた。  幸いなことに父は大手企業に勤めていたため、母が苦労して働かなくとも私たち二人は父の遺族年金で暮らしていけた。  だけど、今後何があるかわからないからと、母はパートを始めた。  私が生まれる前から専業主婦で、のんびり屋さんの母が、あくせくと働く姿は正直見ていられなかった。  私が収入を得るようになって、高校生になった時に母にはパートをやめてもらった。  そして鎌倉でのゆったりした暮らしによって、母は生来ののんびりさを取り戻してくれたようだった。  「それでね、絶対神様だと思ったんだけど、人だったの。しばらく信じられなかったし今もまだちょっと信じてないんだけどね」  「あらぁ~そんな親切な人が東京にもいるのねぇ~」  「あれが本当の神対応だよ」  「それで、その方にはきちんと御礼はしたの?」  「ううん。まだできていないの」  あの後、如月さんから頼まれた案件に目を通して、眠すぎてすぐに落ちてしまった。  気づいたら翌日の夕方になっていて、私は急いで電車に飛び乗った。  一週間休みをもらえたから、その間母のところにいようと思ってここにきていたのだが。  「ハッ! そういえば落ち着いたら連絡ほしいって言われてたんだ……」  なんてこった……。  今の今まですっかり忘れていた。  「あらっ、そうなの? だめよ~。すぐに連絡しないと~」  「うん。そうだった。今、連絡してもいいかな?」  「もちろん。思い立ったら行動!」  「だね!」  母の明るくて前向きなところが好きだ。  さすが私の母親だけあって、母もなかなかの天然モノで、要領も決していいとは言えない。むしろ悪い方だと思う。  だけど、自分がどんな状況に置かれても真っ直ぐで、自分らしくあることを貫く姿は、私の生きる手本でもある。  私がとんちんかんでも人の目を気にせず、前向きに、自分らしく生きているのは、母のおかげなのだろう。  『あら、乃々花らしくていいじゃな~い』と言って、どんな時も私を肯定し続けてくれたから、私の心はいつだって自由だった。
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