第二話 再会の乾杯

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 《怒ってるわけじゃないんだ……なんかもう、君が予測不能なことをするから驚いてね。それに、ちょっと楽しいなとも思ってる》  「そうでしたか」  怒ってるわけじゃないのか……。  とんちんかんさを楽しんでもらえていたのなら、良かった。  《とりあえず、会いたいんだけど》  「はい?」  《君に会いたいんだけど、いつなら空いてる?》  「えっと……ちょっと待ってくださいね」  東京には明日帰る予定だ。  明後日からは漫画の続きをちょこっと描くだけ。  「明日の夕方以降なら、いつでも時間の調整はできます」  《わかった。ちなみに僕も自由業で在宅ワークだから、時間は気にしなくていいから》  「そうだったんですね」  普通のサラリーマンだとは思っていなかったけど。  そっか、千紘さんも私と同じ自由業だったのか。  周りに自由業の知り合いなどいないため、それだけのことが嬉しかった。  《うん。じゃあ明日の夜ディナーでもどうかな。19時頃マンションまで迎えに行くよ》  「はい。大丈夫です」  《良かった。あれから君の連絡をずっと待ってたんだよ?》  「ばたばたしていて。遅くなってしまってすみません」  《ううん。連絡くれて嬉しいよ。自分でも驚くくらい嬉しいって思ってる》  「はい。私も嬉しいです」  またお神に、じゃなくて千紘さんに会って、きちんと御礼を伝えたいと思っていたから。  《今マンション?》  「いいえ、鎌倉の母の家に」  《鎌倉にお母さんの家があるんだね》  「はい」  《今日はゆっくり過ごして。明日、僕と会う約束忘れないようにね》  「も、もちろんです!」  まさか、連絡することを忘れていたことがばれてしまったのか、ドキリとした。  《おやすみ。乃々花ちゃん》    「はい。千紘さんもおやすみなさい」  《ん。また明日ね》  「はい」  千紘さんとの電話を終えて、だらけきった風太郎に抱き着いた。  「ワウ?」  どうした? とでも言うように、風太郎が顔だけ起こして私を見る。  「どんな御礼をすればいいかな?」  「……フウッ」  俺がそんなこと知るわけないだろう。とでも言うように、呆れた目を向けて、興味なさそうに起こしていた頭を床に落とした風太郎。  都心の豪邸に住んでいるような人にできる御礼ってなんだろう。  何もかもを手にしているような人に、私は何ができるのだろう。  夜の空を見上げながら、いつまでもぼーっと考えた。
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