第二話 再会の乾杯

5/15
前へ
/166ページ
次へ
 ◇◇◇  マンションに着いて、ひとまずお風呂に入った。  9月も後半となっていたけど、昼間の最高気温は29℃とまだまだ暑い。  人が多い電車に乗ってきたこともあって、体が汗でべたついていた。  千紘さんは19時にマンションの前に来てくれると言っていた。  どう見てもリッチな彼が選ぶような店など、ドレスコードのあるレストランの可能性が高い。    体を拭いて、髪を念入りに整えた。  ディナーなら、きちっとした服装がいいだろう。  今年の誕生日に如月さんからプレゼントしてもらったあのワンピースがいいかもしれない。  自分では絶対に選ばないようなデザインだと思って、クローゼットに眠らせたままのワンピースドレス。  胸元がシースルーになっていて恥ずかしいけど、そもそも35歳の大人な千紘さんとのディナーに来て行ける服などこれくらいしかない。  選択肢などはなからなかったため、とりあえず着てみることにした。  「……あれ」  鏡で自分の姿を見て、思ったほど変じゃないことに驚いた。  身長の低い私が着てもバランスが悪くならないスカート丈。  気になっていたシースルーの胸元も全然下品じゃない。  普段、着飾って外出することなどほとんどないからどうかと思ったけど、さすが如月さん。  これなら髪の毛をアップにした方がいいかもしれない。  軽くメイクをして、誕生日に母にもらったパールのイヤリングをつけたら合いそうだ。  そんなこんなで身支度をしていたら、いつまでも幼いと思っていたのに、鏡には年齢相応の女性が映っていた。  「……ふむ」  一年のうち300日は寝間着にぼさぼさの髪の毛で過ごしているから、まじまじと鏡を見ることなんてほとんどない。  だけどこうしてきちんと着飾ると、それなりに化けるものだ。
/166ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1215人が本棚に入れています
本棚に追加